第一章

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朝比奈さんが俺に頼みごとと言えば、すべからくハルヒ絡みのことである。いや、別に何を期待しているワケでもないが。 差し当たって、鶴屋さんには席を外してもらいたいところで。 俺か朝比奈さんから切り出す前に、 「じゃ、私は職員室のところで待ってるよっ。ちゃんとハルにゃんに怪しまれないようにしてるから安心しといてっ」 と言い、二ヒヒ、と笑って階段を降りていった。 あの方には、この先も何かとお世話になりそうな気がする。 多分、一生頭が上がらないだろうな。 階段を降りるステップの軽快な音を聞きながら思った。 「俺達の教室に来るの、危なかったんじゃないですか?ハルヒがいたら…」 「涼宮さんが学食に行くところ、見たので…」 なるほど。 しかし、このことをハルヒが聞き及ぶようなことがあってはならない。あとで谷口と国木田に口止めしておくか。 「それで、頼みたいことってなんですか?」 一応、人気のない場所なので声量を抑えて話している。この現場を発見されるようなことがあっては朝比奈さんの名に傷がついてしまう。俺が男子生徒の大半からつけ狙われようがそんなことはどうでもいい。 「えと…その…今日、部活に行けないんです」 …ふむ。 「…えっと…詳しくは禁則にかかっちゃうから言えないんですけど……その、わかりやすく言うとですね…私達未来人の定期報告会みたいなものがあるんです。今日はその日で…その、それで…」 …分かりました。ハルヒには適当に誤魔化しておきますよ。安心してください。 「…あ、ありがとうございます!それじゃあ、よろしくお願いしますね」 うつむきがちの顔が、天使の微笑みで満たされる。俺の心も癒しで満たされる。 いつまでも笑っていてください、朝比奈さん。 俺は心の中でそう呟いた。 同時に降りると危険極まりないので、朝比奈さんに先に降りてもらった。 …しかし、朝比奈さんと二人きりというのはいろんな意味で心臓に悪い。 一緒に居るとき自体は至福の時なのだが、こうやって秘密の逢瀬みたいに居ると罪悪感にまで駆られてしまう。 …いや、決して悪い意味ではないが。 腹の具合から、まだ弁当を半分も食べていないことに気づいた。
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