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口に出してから、菊丸は下を向いた。
この空気はヒヤリとしていて冷たかった。
大石が菊丸の横に座るのがわかる。
そして、大石は口を開いた。
「…俺はね、春が好きだよ」
何を言い出すのかと思った英二の手に重なる大石の手。
「新しい事が始まる気がしてさ。それに春が来なけりゃ、英二にだって会えなかった。」
菊丸は顔をあげた。
視線は真っ直ぐ大石に。
心臓がバクバクしてやけに煩い。
「英二が好きだよ、ずっと」
大石の真っ直ぐな言葉がふわりと菊丸の耳に届いた。
涙が出そうになったのを堪えて、菊丸は大石に抱きついた。
とっさの事で驚いた大石は菊丸ごと、体制を崩した。
「大石…高校が違っても俺と一緒にいてくれる?」
不安そうな目で訴えてくる菊丸。
体制が苦しいが、大石は菊丸の頬に手を伸ばす。
まるで大切な宝物に触るみたいに触れる大石の手。
気付かなかった。
いつも大石は俺にそんな風に触れていてくれたんだ。
「大丈夫だよ、英二。何があっても俺たちは黄金ペアなんだから」
季節は冬。
だけど、空気は温かい。
そだね、と菊丸は満面の笑みで微笑む。
帰ろっかと大石が言う。
立ち上がった菊丸の耳に大石の声がかかる。
「英二」
振り向いた菊丸の唇に触れるだけの優しいキスが舞い降りた。
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