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プロローグ
夕日が赤く染める山道を、怪しげな影が跳ねて行く。
両腕を真っ直ぐ前方に伸ばし、姿勢は鉄柱の如く歪むことなく、足首から先だけをバネにして、飛び跳ね進むその姿は、とある国の伝説にも聞いた、死体から生まれる妖怪、それとそっくりだった。
「おのれ、激獣拳士どもめ……」
影、怪人の口から言葉が漏れる。
「おのれ、臨獣拳士どもめ……」
呪うように言葉は吐き出される。
同時に漏らされた吐息は毒を孕み、道々の木々を弱らせた。
沈みかけた太陽はその日で一番濃い光を放ち、怪人の真っ白な顔を夕日色に染める。朱色の武道着になされた金の装飾が、降りかかる日光をキラキラと跳ね返した。遠く離れた場所から見れば、その姿は神々しいものに見えたかもしれない。
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