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「いや・・・」
そう言ったのに西野は何も聞こえてないみたいで、ヨーヨーの出店にひょこひょこと近付く。
出店のおじさんと話して笑っている西野を横目で見やり、今逃げ出せるんじゃないか?なんて考えてしまう。
傷つく言葉を言ってしまった相手に、どういう顔をしていいのか正直分からない。
向こうはもう気にしてないかもしれないけど、一度でもあんな酷いことを簡単に言ってしまった自分が嫌で堪らなかった。
ボーっと人混みを見つめていると、「麗ちゃーん!何してるの~?」とのんびりとした声が聞こえる。
頼むから、もう私に構わないで欲しい。
もしまた酷いことを言ってしまったら・・・と思うと、自分が許せない。
でも・・・私は・・・西野と話していると・・・少し楽しいから・・・本当は「構わないで欲しい」なんて出来れば言いたくないんだ。
「麗ちゃんっ!!!」
「わっ!!」
耳元で大きな声で名前を呼ばれて肩が飛び跳ねた。
横を見ると、赤色のヨーヨーを顔の横にぶら下げて笑っている西野がいた。
「も~う、呼んでも来ないんだもん」
「あ・・・」
一瞬言葉に詰まるが別に行くなんて言ってないし。
「行くなんて言ってないだろ」
フンと顔を背けて言うと、西野は困ったように眉を歪めた。
「ええ~!麗ちゃんが欲しそうにしてたから呼んだのに~」
可愛らしく頬を膨らませて、そう言う西野。
本当に女みたいな奴だな。
「欲しいとも言ってない」
「そうなの~?
でも、取ったから。はい」
西野は笑顔で私にヨーヨーを差し出してきた。
西野の手の中でゆらゆらと赤いヨーヨーの中の水が揺れている。
赤いヨーヨーを見て、西野を見た。何度も交互に見返し、私が貰うのを延々と待っていそうだから、渋々受け取った。
「どうも」
「へへ、どういたしまして」
私が渋々ヨーヨーをバウンドさせていると、西野が満足そうに言う。
「可愛いよね、このヨーヨー」
「・・・・・・」
コイツは、ただのヨーヨーでさえ可愛いと言うのか?
無表情で西野を呆れるような目で見ると、てっきりヨーヨーを見てるのかと思った西野と目が合った。
「赤くて、なんか麗ちゃんみたいで」
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