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「ねぇ、ちょっといいかしら?」
「?」
目を合わせないようにした。だけど無意識に私はその声に反応してしまったのだ。
これでもう無視出来ない。嫌々ながらこの人の話を聞かなくてはならないのだ。
気品そうに見えるいかにも普通な人。
だけどそれが返って胡散臭かった。
「貴方の髪所々跳ねてるけど、それはわざと?」
「いえ、癖っ毛です。水で真っ直ぐにしたんですが元に戻るので諦めました」
「それは駄目よ。女の子は肌もだけど髪も大事なのよ。それにね、そういうのは水では直らないのよ」
あ…なんか続きがよめたかも。
「私の会社でね、CHL(クールヘアーライフ)て液体を作ってるんだけど、これはどんなしつこい癖っ毛もまっすぐになる夢のような液体なのよ」
「は…はぁ…」
「どう?試しに使ってみて気に入ったら購入してくれないかな。大丈夫。初回価格安めにしておくわ」
「あの…でも私は…」
「女の子なんだから髪を気にしないわけないわよね。でも染めすぎな人は髪を大事にしてないわよね。あれは髪がもう死んでるから取り返しがつかないわ」
「そう…ですね」
「触れただけで切れるのよ。お婆ちゃんになった頃にはあれは禿げるわ。言いたくないけど。先の事をあの子達は考えていないのかしら。その点、貴方は真っ黒な髪でとても綺麗ね」
「ど、どうも…」
なんか、逃げたくても逃げられないかも。だって全然話が途切れないんだもの。
助けを求めたくても周りは素知らぬ顔で通り過ぎる。
ま、当たり前か。都会人は常に忙しいし、他人の心配なんかしていられないものね。私だってきっとそうだ。自分は関係ないと通り過ぎてしまう。
「とにかくここではなんだから場所を移動しましょう。近くに会社があるの」
「あ…あのちょっと」
強く無理矢理手を引かれる。ここで勇気を出して嫌だと拒否らなければ大変な事になる。
流されては駄目だ!
流されてる自分を卒業しなくては!
「や…」
「彼女、嫌がってるだろ」
その時背後から腕が伸び、手を引く女性の手を背後の者が掴み上げる。
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