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「大丈夫かい?」
「あ…ありが…とう」
「礼を言われるような事はしていないよ。それよりも、君もただ黙ったままなのはいけない。勇気が出なくて何も言えない気持ちもわかるけど、一歩を踏み出さなきゃ、何も変わらないよ」
「仰る通り…」
だけど、声が出ないのだ。頭でわかっていても、声が出ない。
「ここであったのも何かの縁だ。君、名前は?」
「え」
「あぁ、まず相手の名前をきくには自分から名乗らないとね。僕は紫堂明日香だ」
「女っぽい名前だね」
「ん?あぁ…ま、よく言われるよ」
そこで何故笑い出すのか疑問だったが、深く考えずに私も名前を名乗った。
あまり言いたくないが…
「私は…先原…です」
「何?聞こえないよ」
「先原……あり…です」
「は?」
「だから“あり”です!」
「………」
あぁ…言いたくなかった。
凄く変な顔してる。
「それはまた斬新な…、でもいい名前だね」
「お世辞でも有難う」
「ううん、確かに変わった名前だけど、僕君の名前好きだよ」
「……っあ」
思わず俯いてしまう。真っ直ぐな目で見つめられて、私はなんだか変な気持ちになった。
初めて会った人に何故こんなにもドキドキしているのだろう。もしかして私、この人に一目惚れしたのだろうか…?
そんな事ないとわかっているのにその後彼からお茶を誘われた時、私はやはり確信した。
やっぱり私は彼に一目惚れしたのだと……
ただ助けてくれただけなのに………
私はこの青年、紫堂明日香に恋をしたのだった…
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