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「…!!」
克幸はそれに驚き、無意識の内に背後へ数歩退きながら、同時に腕を大きく振るった。
すると、
「…!」
爪牙の左腕に、薄く切り傷が付いた。
その様子に、涼香は再度口を開く。
「アノ姿にはなれなくても、アノ姿の能力は常に使えるわ…」
要するに、克幸の緋い色をした獣のように鋭い爪は、アノ姿と比べると切れ味や強度は数段劣るものの、必要最低限の殺傷力はある。
それに気付いた克幸は、爪牙に両腕の爪を向けて構えるが、
「気に入らねぇ…気にらねぇ…」
対する爪牙は徐々に激しく苛立ちながら、
「…!!」
突然自分の眉間に親指の爪を突き刺した。
克幸がそれに驚いていると、
「少し離れなさい…」
克幸の手前に涼香が腕を翳してそう言い、充分に間合いを取らせる。
一方爪牙は眉間から血を流しながら両目の眼球が血のように真っ赤に染まり、
「…ア……ァア…ア!」
激しい苦痛に表情を歪め、額に手を当てる。
そして、両目のすぐ上の眉辺りから何かが皮膚を貫いて生え始め、それは徐々に頭部の方にまで突き伸びて触角になり、ハッと顔を上げると、開かれた顎が二つに割れ、更に大きく開く。
そして全身は徐々に葉色に染まっていき、いつの間にか、
「…あんた…まさか」
「そう、彼もまた貴方と同じ、"成功作"の一人…」
怪人のように奇妙な姿をした、飛蝗(バッタ)人間となっていた。
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