其の一 小野篁、身は朝廷に仕え、魂は冥途に通ぜり

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 だが、つきあいは悪くとも、誰も篁の悪口を言わない。宮廷の官位が上の者も、皆が皆、この男にだけは、妙にへりくだっている。  幽冥界の者とつきあいがあるだとか、歳若い美しい女が、常にこの男の傍らにいるとかいう噂がある。  この噂の奇妙なところは、もう二十年も昔から同じことが言われているということであり、その傍らにいるという女が、いつも、まだ十代の若い娘であるということであった。  宿直の晩など、ただ独りでいるはずの篁の傍らに、その女が座して、何やら話をしているのを見たという人間もひとりやふたりだけではなかった。
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