一 一城直真は困惑する

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    「だから、私もナオマくんのこと、ずーっと見てた。ずーっと」      そんな経験値ゼロ、恋愛ストーリーゼロの俺も高校生になった。いろんな意味で期待しまくった俺は、意気揚揚と高校に向かった。  その、最初の入学式。俺は衝撃を受けた。在校生代表としてステージに上がり、スピーチをした生徒会長。俺は一瞬で、その人に一目惚れした。かわいいから、とか、いい人そうだから、とかそんな理由でなくて、なんというか、もう、世界が違うとでもいえばいいのか。俺の手の届く場所とは、遥か遠くにいる存在というか。風でなびく艶のある長い黒髪が、引きこまれそうになる大きな瞳が、見ただけで柔らかいと分かる唇が、スカートからのびる長くて細い脚が、適度に制服の布地を押し上げている胸が、凛とした態度が、発されて響く美しい声が、その全てが、俺の心を一瞬にしてステージへと奪い取っていった。  高波唯々美(たかなみゆゆみ)先輩。  俺はその人に恋をした。     「ナオマくんが、生徒会に入ってから、今まで、ね」      初恋という名の青春現象は、予想以上のものだった。生徒会長としてステージに上がっていた姿が目の裏に焼き付いて消えず、目を瞑れば唯々美先輩の姿が頭に浮かぶ。まるで病気だった。心臓は激しく鼓動して、何もかも手がつけられない。幼なじみとの会話もままならず、本当に風邪か何かだと心配されるほどだった。
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