移り行く季節の中で

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「……ねぇ、皐月。僕、昨日から動悸が止まらないんだ」 「救心でも飲みますか?」 何処からともなく、ナチュラルに救心を出す皐月。 (……うん) 僕だから判るんだろうけど、今の皐月は、ポーカーフェイスに見せかけて素晴らしく悪戯っ子のような表情をしている。 「ちょっと、皐月……?何なの、その顔」 「自分で気づいてないのなら、それはそれで良いと思いますよ、俺は」 「くっ……何か悔しい」 「……卯月さん、本当に判らないんですか」 急に、真剣な顔になる。 皐月は、普段から語尾に疑問符を付けないことが多いけど。 真剣な話をする時程、決まって語尾に疑問符は付かない。 (まぁ、この見極めも、僕だから判るんだろうけど…) それが出るということは、かなり真剣ということだ。 「うーん……判んない」 おふざけ無しで、僕も真面目な顔と声色で言う。 「仕方ないですね……ではヒントをあげます」 顔に出さずとも、皐月の声はどことなく楽しそうだ。 余程、僕に判らないことが自分には判る、ということが嬉しいんだろう。 「うん、お願い」 それが判るからこそ、少しだけ悔しい気持ちを押さえて、お願いする。 「卯月さんがさっき、『なわけないじゃん』と言ったことですよ」 ご丁寧に、上着の内ポケットから録音機を出して録音した僕の言葉を流す。 彼の実家の家業上、会話を録音し証拠としてとっておくことは大切なことなんだろうけど、彼のこの癖はかなり厄介だと思う。 もし、皐月と本気でやりあったとしたら、頭脳戦ではかなり苦戦するだろう。 本気になったら、相当頭が切れる男だ。 (うーん……皐月が仲間で良かったなぁ、ホントに)
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