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まだ春と言うには肌寒い、冬の終わりの時期だった。
「ちっ……弱い奴らだなぁ…」
宇佐見 卯月。
か弱い小動物の名を持つ、獰猛な血に飢えた獣。
……それが僕につけられた別名、もしくは異名。
単なる、軽蔑するためだけの呼び名。
「あ、口の中切っちゃってる……血ってホント不味いな……」
くくっと、自嘲の笑みが漏れた。
いったい、今までどれだけの喧嘩をしてきただろう。
とっくに忘れてしまうくらいに、僕の毎日は喧嘩に埋もれていた。
……まぁ、僕から仕掛けたことは一度もないけれど。
(体力、勿体ないよなぁ。てか、何で最近喧嘩売ってくるヤツ多いんだろ)
弱いくせに向こうから仕掛けて来て、殴りかかってきたら避けて、一発返す。
それだけで向こうは倒れる。
いつものことだ。
すぐ倒れるし、挙句に喚くし。
うざくて堪らないけれど、一応、ストレスの発散にはなっている。
「……けど、口の中の血の味と、手の擦り傷でストレス溜まるなぁ…」
今回は、一発殴られた。
お陰で口は切れるし、油断していたせいで尻餅をついて手の平を擦り剥くしで散々だ。
(……最悪)
僕としたことが、隙を見せてしまったんだ。
通りがかった女の子が一人、泣きそうな顔で、僕を見つめていたから。
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