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(うーん…泣かせちゃったかな…)
少し反省しつつ、その場を離れようと歩き出した。
「あのっ…待って下さい…っ」
その女の子が、僕のパーカーの裾を遠慮がちに握ってきて。
見ると、裾を掴んでいる彼女の手は、小さく震えていた。
手袋をはいているから、寒さのせいではないだろう。
肌寒くはあるが、現にパーカーやコートだけでも十分過ごせる。
「何?」
僕はそっけなく答える。
(震える程に僕が怖いのなら、関わらなければいいのに…)
そう思いながら、チラリと、彼女の様子を伺う。
目の前の彼女は、未だ俯いたままでいる。
「その……手当、させていただけませんか?」
「……は?」
小さな声で呟いたかと思うと。
女の子はスッと顔を上げ、意思の強い瞳で、僕を見上げた。
「わたしのせいで、貴方は怪我をされたんです。わたしが手当をしなければ、筋が通りません」
(要するに、自分の気が済まないってことか)
でも、何故かは判らないけど。
頭は冷静で、こんなに冷めた考えだって浮かんでくるのに。
心が、彼女に逆らえない。
(……きっと。彼女の、意思の強い瞳のせいだ)
そうであると、思いたい。
「……わかったよ、お願いする」
僕のこの言葉に、彼女はホッとしたような表情になって。
眩しい笑顔で、微笑んだ。
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