移り行く季節の中で

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「文月、階段を走っては危ないですよ。それにお客様の前なんですから、もう少し慎んで下さい」 抱き付かれた葉月は、慣れた様子で、諭すように言いながら女の子の頭を撫でている。 抱き付いている子は、どうやら妹らしい。 「あ、すみません。私、自己紹介もしていませんでしたね……私は相沢葉月。この子は妹の文月です」 ボーッと二人の様子を見守っていると、葉月が紹介をしてくれた。 (取り敢えず、僕も名乗らなきゃ) 「僕は「知ってるよ!!宇佐見卯月さん、だよねっ」 僕の言葉を遮ったのは、大人しい葉月とは反対の、元気いっぱいの文月。 (……どうして、僕の名前を知ってるんだろう?) 僕はまだ一度も名乗っていない。 疑問に思って、口を開く。 「ねぇ、何で僕の名前知っ「文月、お茶の時間ですよ!!メイドさんが待ってますっ」 葉月は赤くなりながら、大きな声で文月を促している。 「あ!!これから行くつもりだったのに、すっかり忘れてた!!じゃ、葉月姉、卯月さん、バイバイ!!」 元気良く手を振りながら、文月は階段を走って登って行く。 何て早い初対面の終わり方なんだとか、いつもの僕なら直ぐに考えつくような冷たい言葉すら、なかなか思いつかないほどに。 ペースを掻き乱されてしまっていた。 (…なんか、悔しいな) メイドや執事達は各自の仕事に戻ったのか、文月が去った後の玄関ホールは、嵐が通り過ぎた後のように静かになっていた。
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