移り行く季節の中で

7/20
前へ
/31ページ
次へ
「…えーと…手当は?僕、そろそろ帰りたいんだけど…」 現在、時刻は17時半。 喧嘩したのは16時くらいだったから、約1時間以上経っている。 僕はあまり気が長い方じゃないと思う。 (けど……まただ) 何故かは判らないけれど、葉月と居ると時間なんて関係ないって、そう感じる。 (……今日の僕、何かおかしい…) こんな気持ち、初めてだ。 「あ、すみません……わたしについて来て下さい」 葉月はそう言うと、僕に手招きをして長い階段を登り始める。 僕もその後に続く。 「あの…わたしの部屋で、申し訳ないのですが」 部屋についてソファーに座らされるなり、本当に申し訳なさそうに言われると何も言えなくなる。 (…いや、別に文句はないけど) 「別に良いよ」 どうしてもそっけなさは拭えなかったけど、何とか微笑みかけることは出来た。 「え…あ…」 そうすると、葉月はまた赤くなってしまう。 どうして赤くなっているのか、なんて訊くのは、何となく気が引けて。 (…まぁ、別に良いんだけどさ) 少しは気になったけれど、人の内情に深く突っ込むのはあまり好きじゃない。 それより、葉月の手際が妙に良いことの方が気になっていた。 「…文月が、昔からよく怪我をしていたので、手当てに慣れてしまっているんです」 「成程。確かに、見るからに活動的な子だもんね」 苦笑しながら答えた僕に、葉月は照れ臭そうな笑顔を向けた。 (何だか、懐かしい感じがするのは……僕の思い違いかな…) そんなことを心の隅で思いながら、暫く葉月と話していた。 それが楽しくて、気付いたら結構遅い時間になっていて。 それに気付かないくらい葉月とは凄く気が合って、本当に時間なんて、関係ないように思えた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加