1222人が本棚に入れています
本棚に追加
あれ?俺…生きてる?
「蕨…俺、どうして…」
館で自分の血を見てからの記憶がない。
あのあと…どうなったんだ?
蕨が混乱する斗志を落ち着かせるように、ゆっくりとした口調で答えてくれた。
「斗志くんがメアリー・ケイを終わらせてくれてからね。館の扉を確認してみたら、ちゃんと鍵が開いていたの。電話も通じるようになってた。だから私と勇二さんで怪我人を運んで、急いで救急車を呼んだの」
「そう…」
ようやく思考回路が働き出したのか、すぐにその説明を飲み込むことが出来た。
「そっか…ありがとう。よかった、無事だったんだね。蕨も、勇二さんも」
そう言って笑んだが、蕨は何故か悲しそうな表情で視線を落とし首を小さく横に振った。
「ごめん。私が…斗志くんにこんな大怪我をさせちゃったんだよね。ごめんね…本当にごめなさい」
そう言った彼女の手は小刻みに震えていた。
よく見れば、服装も変わらず制服のままだ。
外の景色から察するに、多分あれから丸一日近くが経っているだろうに。
きっと、ずっと心配して側にいてくれたのだろう。
「なんで蕨が謝るんだよ。この怪我はメアリー・ケイがやったんだ。蕨じゃないよ。俺の方こそ心配かけてごめん」
そう言うと、彼女は緊張の糸が切れたように急にポロポロと涙を零し始めた。
「お、おい。泣くなよ蕨…」
斗志は反応に困り、おどおどと手を伸ばす。
しかしその手の行き場に更に困り、どうしようかと迷っていたその時――…
ガラッ
「お!」
そんな声と共に、誰かがタイミングよく扉を開けて部屋に入ってきた。
視線を向ければその男…佐々木勇二と目が合う。
彼は「よっ」と軽く手を上げて、ベッドの傍らの椅子に腰を下ろした。
「勇二さん!」
その元気そうな姿に安堵の息を吐く。
斗志はそこでようやく実感した。
俺たち、本当に助かったんだ…
.
最初のコメントを投稿しよう!