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3
翌日。いつも当たり前に開く教室の扉が怖い。
昨日、あっちゃんは言ってた。
『告白は無理だって言ったすぐ後に。後悔したくないって、決意した里子は偉いよ。』と。
誉めてもらって、すぐに勇気を無くした私を許して…
「神田?入らないの?」
不意に、神田君の声が耳に飛び込んで驚いた。
“待って。まだ、心の準備してない”
「神田?」
「お。お先にどうぞ!」
「うん?―ありがとう。」
訝しげに、私を見ながら扉を開く新井君。
開けたと思ったら、振り向いて話し掛けてきた。
「神田。昨日、大丈夫だった?」
「え?」
「急に走り出したまま、一時間目出なかったからさ。気になってたんだ。」
“気にしてくれてたんだ。”
それが嬉しい。
「ありがとう。」
きっと顔は赤かっただろう。ドキドキする気持ちは、鎮まらなかったから。
「ん?―いや。礼を言われるほどじゃないけど。何とも無いならいいんだ。」
急に、早口で新井君が喋るので。不思議に思って顔を上げた。そしたら…
「あ。忘れ物!」
と言って走り出した。
「え。授業は?」
「サボる!」
私は、訳が解らず新井君の背中を見送った。
「里子?」
呼ばれて、振り返る。
「あ。みかちゃん。新井君の様子がね?」
今あった事を話す。
すると、みかちゃんは笑顔になって言ったんだ。
「なるほどね。」
と。何がなるほどなのか知りたくて、何度も聞いたけど。みかちゃんは教えてくれなかった。
新井君は、とうとう午前中まるまるサボった。
担任の深法川先生が、眉間に皺を寄せて新井君に職員室へ来るようにと話していた。
その日は…ずっと、彼は目を合わせてはくれなかった。
「あれ?もしや里子、図書室行くの?」
放課後。図書室へ本を返しに行こうとすると、ともちゃんが声を掛けて来た。
「うん。」
「私も行く。延長して怒られたんだよね。」
「延長?そんなに楽しい本だったの?」
覗き込むと、具合が悪くなりそうな題名だった。
“闇夜の妖怪”
「最高に幸せな一ヶ月だったわぁ。」
うっとりと話すともちゃんだが…
「一ヶ月?延長何週間よ?四週間!?」
「だって、何十回て読み返しちゃったんだもん。」
「お前、本当に妖怪物好きだよなぁ?」
話に割り込んできたのは、隣のクラスの市川千也(いちかわせんや)君。ともちゃんの幼なじみだ。
「いいでしょ、別に。」
「悪いとは言ってない。」
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