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それから数日後。
私の苦手な体育は、ドッチボール。
―悪い予感がバシバシにあるわ…。
「神田にあてろ!」
「里子、逃げろ~!」
“何でドッチボールなの?体育、ダイッキライ!”
「あ、里子よけて!」
ひろちゃんの声に、振り返る。
バシッ!!
「…?」
うっすらと目を開けると、目の前には新井君が居た。
「ありがとう…。」
「別に。次は、最初から外野に居た方がいいよ。」
絶対に目を合わせず、私にそう言った新井君。
よく解らないよ。優しくしてくれたかと思えば、冷たくなったり…。解らないよ。
「新井、庇ってたらゲームならねえだろ!」
という男子の声を無視して、黙々と投げている新井君。すると、思わぬ事を叫んだ。
「明後日、転校するから。最後の女子への優しさ?なんて。」
と…。
皆、ざわつく。
体育の見上先生は、慌てて新井君に駆け寄った。
「新井、内緒で行くんじゃなかったのか?」
「内緒だと?新井、お前ひでぇじゃねえかよ!」
「そうだよ。どういう事だよ!」
等の声が飛び交う中、私は血の気が引くのを感じた。転校するのは知ってたけど、いつ…と特定されたら辛い。
現実を突きつけられたら…息が詰まる。
「ごめん。でも、やっぱり後悔しそうだったからさ。俺、都立一楠(いちなん)高校に行くんだ。バスケの名門…本気でプロになりたいから、全寮制で厳しいけど。頑張ろうと思ってさ。でも、二駅しか離れてないし。女子禁制だから、男子は遊びに来て。」
そう 笑った新井君に、女子は騒いだ。
「中に、入らなきゃいいじゃない。遊びに行くわ!」
「そうよ。」
私は、動けなかった。新井君の顔も見れない。
でも、そんな私に新井君は耳打ちをして来た。
「放課後、図書室で待ってるから。」
私は、驚いて顔を上げた。
新井君は、もうドッチボールを再開している。
ドキドキする。
不思議と不安は無かった。
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