約束のホームで待ってて

6/8
前へ
/22ページ
次へ
4 それから数日後。 私の苦手な体育は、ドッチボール。 ―悪い予感がバシバシにあるわ…。 「神田にあてろ!」 「里子、逃げろ~!」 “何でドッチボールなの?体育、ダイッキライ!” 「あ、里子よけて!」 ひろちゃんの声に、振り返る。 バシッ!! 「…?」 うっすらと目を開けると、目の前には新井君が居た。 「ありがとう…。」 「別に。次は、最初から外野に居た方がいいよ。」 絶対に目を合わせず、私にそう言った新井君。 よく解らないよ。優しくしてくれたかと思えば、冷たくなったり…。解らないよ。 「新井、庇ってたらゲームならねえだろ!」 という男子の声を無視して、黙々と投げている新井君。すると、思わぬ事を叫んだ。 「明後日、転校するから。最後の女子への優しさ?なんて。」 と…。 皆、ざわつく。 体育の見上先生は、慌てて新井君に駆け寄った。 「新井、内緒で行くんじゃなかったのか?」 「内緒だと?新井、お前ひでぇじゃねえかよ!」 「そうだよ。どういう事だよ!」 等の声が飛び交う中、私は血の気が引くのを感じた。転校するのは知ってたけど、いつ…と特定されたら辛い。 現実を突きつけられたら…息が詰まる。 「ごめん。でも、やっぱり後悔しそうだったからさ。俺、都立一楠(いちなん)高校に行くんだ。バスケの名門…本気でプロになりたいから、全寮制で厳しいけど。頑張ろうと思ってさ。でも、二駅しか離れてないし。女子禁制だから、男子は遊びに来て。」 そう 笑った新井君に、女子は騒いだ。 「中に、入らなきゃいいじゃない。遊びに行くわ!」 「そうよ。」 私は、動けなかった。新井君の顔も見れない。 でも、そんな私に新井君は耳打ちをして来た。 「放課後、図書室で待ってるから。」 私は、驚いて顔を上げた。 新井君は、もうドッチボールを再開している。 ドキドキする。 不思議と不安は無かった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加