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「下に走っていったけど。何かあったのか?」
史隆は耳をすませ、足音を聞こうとしていた。
聞こえないと諦め、俺と話す。
「ちょっと、ケンカ…。」
「優理花と?」
優理花が怒ったりするのか?
しかも何で史隆相手に。
「手ぇ出したのか。」
「出すかよ。」
「それしか考えれないんだけど。」
「ほっとけ。」
史隆は本当に困った表情をしてそれを手で隠す。
「まさかフミ君、優理花にマジ惚れ?」
もう10年以上の付き合いだ。
史隆の本音はお見通しだし、隠される必要もない。
「悪いかよ。」
「いや、悪くないけど。女には気を付けようね。」
史隆は本気で怒った目をして俺から目をそらす。
余計なケンカはしたくない史隆の癖だ。
怒りはどこかへ。
「お前はもっと人を見ろ。優理花ほど守らなきゃいけない子はいない。」
「泣かせたくせに?」
史隆はムスっとして階段を降りて行った。
何故か少しテレているのが分かった。
テレ隠しに史隆はムスっとした顔をする。
どうやら自分をテレさせる、そんな恥ずかしい思いをさせられるのが悔しいらしい。
ヒネクレ坊主。
史隆の足音が遠くなった頃、俺はドアの裏の優理花を覗く。
まだ泣いてる。
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