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■隆人 1幕目
景色も歪むほどの暑さの中、
廊下に転がった彼女は
痛っ・・と
言うか言わないかのうちに
「ご、ごめんなさい」
と、僕に頭を下げる。
二人の教科書や筆箱やらが
スローモーションで
彼女と僕の周りを舞い、
地面に次々と音を立て
落ちる。
それはまるで
映画のワンシーンのような
運命の瞬間。
それはまるで
真夏の夜の夢のような
一瞬の刹那。
ふと彼女の顔を覗いた
その瞬間、
僕に稲妻が落ちた。
彼女の姿を
1秒たりとも目が離せない。
まさか、一目惚れ?
こんなことが
本当にあるのだろうか?
彼女は呆然とする僕に向かい
口を開く。
「だ、大丈夫ですか?」
ハッと我に返り、
「ああ、大丈夫だよ・・
僕の方こそ、ごめんね」
などと、当たり障りの無い
返事をすると、
僕は彼女の
教科書やノートやらを
拾い集めた。
別に下心なんて無かった。
ただ、何かをしていないと
彼女のことで
胸が破裂しそう
だったからだ。
『加藤 夕菜』
彼女の教科書には
こう書かれていた。
加藤夕菜?
僕は目を疑った・・
まさか・・まさかね・・
あの、加藤夕菜?
ハートブレイカー・夕菜!?
僕は愕然とすると同時に
絶望に向かい心は動いた。
『ハートブレイカー』
彼女はそう呼ばれる。
その美しさから
男性を魅了し、
やがては
その心も身も破壊する。
魔性の美女・・
傾国の美女・・
冗談じゃない!
こんな女に惚れてはダメだ!
僕は彼女を見ないようにと
必死に目を閉じる。
彼女を見ちゃだめだ!
彼女を想っちゃだめだ!
彼女と関わっちゃだめだ!
ただ、ただ、
時が過ぎゆくのを
待つんだ・・
彼女が
立ち去るのを待つんだ!
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