邂逅

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シュナイダー・フォードック卿は大変多忙な人である。 というのは、漆黒の槍は有事の際以外は、見習いの指導、果ては他の団の使いっぱしりまでやらされるからだ。 些末な事柄でも自分から率先して動くので、部下からの信頼も厚く、人望もある。 しかし、四つある騎士団の中で一番地位が低いと思われがちの上、一番忙しい部署が故に、異動の希望者が季節の変わり目に殺到する。そういう過酷な部署で隊長をやって三年と半年目。長いと見るか短いと見るかは、人の判断次第。 そんなシュナイダー卿であるが、鍛錬場で見習いの騎士達に剣の指導をしている最中に、こんなことを尋ねられた。 「手合わせをしたら、どの師団の隊長殿が、一番強いのでしょうか」 面白いことを聞くもんだと思いつつも、シュナイダー卿は迷わず「シャール卿だろうな」と答えた。 「あの方は型も綺麗だし、剣さばきもかなりのものだ」 見習いの彼は不服そうに尚も言い募る。 「シュナイダー隊長殿は自分が一番だとは思わないのですか?」 横にいたもう一人が、止めろよと彼を小突いた。 若者は真っ直ぐでいい、などとなかなかにオヤジ臭いことを考えながら、シュナイダー卿は逆に尋ねた。 「何故、私が一番ではないといけないのかな?」 「それは……」 「他の隊長殿に聞いたら、全員が『自分だ』とでも答えたのかね?」 「そういう訳では……」 消え入りそうな語尾で、最後には黙り込んでしまった彼に、シュナイダー卿はからかい口調でもう一度尋ねた。 「一番じゃない隊長の下で働くのが嫌なんだろう。その気持ちはわかるが、それを率直に顔に出すのは、今後に差し支えるぞ」 「あ、いえ、けして、そのような……」 どうやら図星だったらしい、彼はしどろもどろに弁解しようとする。 「お前顔に出るからなー」 ニヤニヤしながら、もう一人が彼を茶化した。 「うるさい、黙れ」 ドツキ漫才のようなやり取りを始めた二人を微笑ましく見守りながら、シュナイダー卿はじっくり観察する。 どうやらこの若者は、嘘が苦手らしい。良くも悪くも、歯に絹を着せられない性格のようだ。なかなか好ましく思える。 しかし、隣のは要注意人物かもしれない。一見人懐っこそうだが、油断のならない目をしている。
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