邂逅

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(仮にも隊長位の人間を相手にするというのに、簡単にやれると思っている甘ちゃんばかりなら、礼儀を叩き込む必要性があるな) そう感じていたシュナイダー卿は、目を眇めて笑った。 「但し、注意事項が二つある。一つ、やる気なら、私を『殺す』というくらいの気構えでなければ相手は出来ない。二つ目、どんな怪我をしようとさせようと、後悔はせず、尚且つ恨むことなかれだ。それでいいならかかってこい」 名乗り出たのは、本気で相手をしてやると言われているのに気付いたが、それでも剣を交えてみたいという、向上心溢れた者が幾人か。ちゃんと忠告をされたにもかかわらず、身の程をわきまえない技量自慢が数人。 賢明にも諦めた者が大半。 そして、先程の二人はどれにも分類出来ない。 率直な若者の方は、自分が教わっている隊長が、どれほどの技量なのか見定めたいという真摯な思いが透けて見えている。片割れの方は『面白そう』という、半端ではなく、正に真剣とも言えるだろう好奇心をたぎらせていた。 二人共、うちで引き取るか。 第一位人事権はシュナイダー卿にある。故に将来的に有望な者を優先的に採用するが、普段の仕事内容の地味さとその多忙さから、十人中一人残ればいい方、残らない年もある。 一般には知られていないが、真の出世コースは、黄金ではなく漆黒なのだ。城の重要職の半分が漆黒の槍出身者であることを認知している者は少ない。 そもそも忍耐力、身体能力、判断力、精神力、――それらが真に秀でていなければ、漆黒に残ること自体から難しい。 多忙が故に、暇を作れる程仕事を上手く捌けるか、努力出来るか。一日に割り振られた仕事量さえこなせれば、後の時間は自分を鍛える為に使えばいい。 だから、下積みがそんなに嫌か! と叫びながら、シュナイダー卿は人手不足にいつも頭を悩ませている。 「さあ、誰から来る? どこからでもかかって来い」 名乗り出た者達の相手を五人程したところで、シュナイダー卿は……ぶっちゃけ飽きた。 本気で相手する程のレベルまで到達している者がいなかったのだ。 相手の一撃をいなすだけで転ばれたら、もう相手をしてやる気すら失せる。 殺す気で来いと言ったのに、どこかに軽んじる気持ちがあるのだろう。彼らには気迫が足りない。 「申し訳ないが、時間の無駄だ。三人ずつでいいか」 五人でもいいかもしれない。
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