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そんなことを考えていたシュナイダー卿に、さっきの片割れの方が声をかけてきた。
「隊長殿ー、先にこいつとサシでやってもらえませんかー? 遠慮して、最後まで待ちそーだし」
「ちょっ、何で勝手に……」
相方の苦情を無視して、尚も続ける。
「それに、こん中で一番剣術の成績がいいし、こいつが負けりゃ、他みんな諦めますよー。どーでしょー?」
なるほど尤も。少なくともその方が(不謹慎だが)楽しめそうだ。シュナイダー卿は他から文句が出なかった為、この提案に乗ることにした。
「いいだろう。お前、名は?」
「ルーク・ヤシュカでっす。こっちのはロシュ・スタット」
「そうか。ヤシュカ、他の隊長連中にはもっと口のきき方に気を付けた方がいいぞ。お偉方は口うるさいのが多い」
「……肝に命じときまーす」
それでも改めないルークの口調には苦笑が漏れるが、なかなかにいい度胸をしている。
「……それでは、お願い致します」
先程までの自信なさげな表情は影を潜め、動物が獲物を狙うかの如く、その一挙手一投足に至るまで息を潜めて伺っているかのよう。
シュナイダー卿は、ロシュという若者には「どこからでも来い」とは言わなかった。
(こいつ、かなり出来るな……)
先程相手をした者達とは段違いの、気迫。そして、年に相応しくない……――そう、殺気というべき物を身に付けている。
間違いなく、ここでは『異端』の扱いを受けるだろう。
気を抜けば、本当に殺されるかもしれない。逆に愉しくなってきた。
そう思える自分が、この地位に馴染んでいないことなど、シュナイダー卿はとうに自覚している。
だが、相手が『見習い』という立場にあるが故に、最後の最後までやり合うことは不可能だ。
それをいささか残念に思いながら、シュナイダー卿は収めていた剣を抜いた。
互いに隙を狙う。
久方振りに、忘れていた高揚感、緊張感を思い出す。
(さあ、どう出る……?)
容易くは動けない。下手な動きをすれば、間違いなくやられるだろう。
勝負は一瞬だ。
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