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「しかし、私の理不尽な怒りを見習いにぶつけたりして……」
まだ言うかとばかりに、ライオネルドは緩く首を振った。
「あのな、お前がやったのは、生意気なガキを叱っただけだろ? そこに多分の私情が入っててもだ。大体、いくら長と言われようと、俺達だって痛いとこ付かれれば、機嫌だって悪くなる。やたらめったら威嚇して回ったりしてなきゃ、少々八つ当たりしたって気付かれないぞ」
俺も時々やっちまう。
身も蓋もないライオネルドの発言には、流石にシュナイダー卿も失笑を禁じ得ない。
「お前が恥じて反省してるなら、それでいいじゃないか」
そして同時に、彼の言う通りかもしれないとも思う。
人間、誰しも聖人君子にはなれない。悟りの心境に入れる程、シュナイダー卿は年を重ねている訳でもない。
「ライオネルド」
「何だ」
「私には、子供だと思って侮る気持ちがあったのだろうか」
真剣な眼差しで真っ向勝負を挑んできた相手に対して、本当に向き合っていたのだろうか。
昔の傷を呼び起こされたからだけではなく、図星を突かれたから、あんなに腹が立ったのではないか。
シュナイダー卿の逡巡が手に取るように伝わってくる。ライオネルドは少し考えてから、答えた。
「そこは、見てなかった俺には何とも言い難いな。でも、お前がそう思うなら、そうなんじゃないか?」
ライオネルドは、助言をしても、良くも悪くも、決断を下すのは本人とばかりに、やんわりと突き放すところがある。
良く言えば鷹揚、悪く言えば曖昧。しかし、そこが付き合い易い所であるのもまた事実。
シュナイダー卿は口元に笑みを浮かべる。
「聞いてもらったら気が楽になった。時間を取らせて済まなかったな」
ライオネルドは片手を軽く上げた。気にするなということらしい。
「さてと、浮上したんなら、こっちを覗いてる小僧共と話してやれ。お前のことを探してたみたいだぞ」
あれ、とライオネルドが親指で示した途端に、慌てて隠れる姿が見えて、シュナイダー卿は思わず吹き出した。
そして物語は継続する。
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