昔話

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「決めたわ、私出奔する!!」 「……は?」 春の日差しも麗らかな午後、シュナイダーの幼馴染みであるマリアローザ・ラル・ロシュナンドは仁王立ちで突然そう宣言した。 そんな幼馴染みに、シュナイダー・フォードックはただただポカンと口をあけたのだった。 ここはアルラン大陸首都ロシュナンド。 その象徴たる王城、所謂王のお膝元での話だ。 この当時、シュナイダーとローザは十六歳。シュナイダーは見習いを卒業して、配属が決まる寸前だった。 突然宣言されても、何が何やらさっぱりなシュナイダーは、幼馴染みに落ち着くよう促した。 「……ちょっと待って、ロジー。話は順序立てて喋って。頭が付いていかない」 「順序もへったくれもあるもんですか、私はここから出て行くって言ってんのよ!」 怒り心頭といった体のローザは、シュナイダーの言葉すら聞く耳を持たない様子だった。 ローザの怒りは凄まじい。それに慣れているシュナイダーは、辛抱強く尋ねた。 「何で出て行くの」 「あのクソジジイなんて言ったと思う!? 『行けず後家になる前に、嫁ぎ先を見つけてやろう』って言ったのよ!? いくら私が不細工だからって、そんな勝手なこと、絶対に認めないわ!!」 「……その通りだ。絶対駄目だよ。君は君の決めた人と結婚するべきだ」 シュナイダーも眉間に皺が寄る。 自分の幼馴染みは、確かに美人とは程遠い。しかも妾腹が故に、周囲からは虐げられているのもよく知っていた。 だが、それでも失うことのない矜持の高さを彼は好いていたので、王の横暴さが痛い程分かっていたシュナイダーでも、この案件は聞き捨てならないと思った。 「あのオヤジ、ツルッぱげにして晒してやるかい……?」 蛇足ながら、当時、王の頭はまだ豊かだった。 自分より冷たい怒りを露わにするシュナイダーに、流石のローザも少し頭が冷えてきた。 「……シュー、それやったら死刑になるかもよ?」 見てみたい気はするけど。 そうつけ加えたローザは、軽く頭を掻いた。 「まあそんな訳だから。シューにだけは言っておこうと思って。……探さないでね」
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