3540人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
しかしシュナイダーは首を振った。
「僕も行く。君一人なんて行かせられない」
真摯な眼差しで見つめられたローザは、血相を変えた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! シューはもうどっかしらの団に入るんでしょ!? 出世出来なくなるわよ!? それに、カーネロおじ様だって……」
「……養父上に恩はあるけど、君の方が僕には大事だから」
それに、と彼は続けた。
「銀の鎧なんかに配属されたら、僕は舌を噛んで自害するかも」
銀の鎧には、ラルコッタがいる。この時既に、シュナイダーのラルコッタへの認識は、『変態』であったことを付け足しておこう。
……尋ねると、誰彼なく口を閉ざすので、詳しくは分からなかったのだが、ローザも、小耳に挟んだ噂によって、ラルコッタとシュナイダーの確執を多少なりと知っていた。
「……シュー、あんな噂、気にしちゃ駄目よ?」
「あれは、女神に誓って、真実じゃないからね。……それなのに……」
まことしやかに囁かれる、シュナイダーの不名誉な噂。それを詳しく聞くのも気が引けて、ローザは詳細を尋ねなかった。
ただでさえ真面目な彼は、それを気に病んでいる。
「大丈夫、シューがそう簡単に誰かの『お手つき』になると思ってないから」
「当たり前だろっ!?」
あまりフォローになってないローザの台詞に、頭に血が昇ったシュナイダーは、思わず彼女を怒鳴りつけた。
しかしながら、過剰反応に驚いたローザが一歩足を引いたのを見て、彼は態度を取り繕った。
「……まあ、そんな訳だから、君が嫌だと言っても同行させてもらう」
「シュー…………。嬉しいけど、それって『逃避』じゃない?」
シュナイダーは流石に言葉に詰まった。
「もし、銀の鎧に行っても、ある程度はフォードックの名が守ってくれると思うわよ? それに、カーネロおじ様だって、今回の件が――嫌な仮定をするけど――本当なら、ラルコッタはとっくにこの王城から『消えてる』筈だわ」
そうでしょうと問われ、シュナイダーは返す言葉がなかった。
カーネロ・フォードック卿は、そう甘い人ではない。四十代という若さで王の補佐ともいうべき地位に就いた辣腕振りは、他の追随を赦さない。
最初のコメントを投稿しよう!