昔話

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ましてや、溺愛していると表現しても過言ではない息子に対して、危害を加えた相手を野放しにするような、『寛容さ』は持ち合わせいないだろう。 これを親バカととるか、英断ととるかは紙一重だが。 「……それは分かってる。でも、君一人だけ行かせるのは、本当に心配なんだよ」 「シュー……、大丈夫よ。私、市場で値切るのも上手だし、そこそこ剣も使えるし」 値切るのと剣がどう関係するのか一瞬考えてしまった彼だが、要するにローザは「市井の暮らしには馴れているし、そこそこの腕はあるから平気」と言いたかったらしい。 しかし、シュナイダーは首を横に振った。 「そうでなく、君は女の子なんだから」 「やあねぇ、私に言い寄るような美意識のおかしな人なんて、滅多にいないわよぅ」 ローザは笑い飛ばしたが、シュナイダーは、「滅多にはいないかもしれないが、絶対いないとは言い切れない」と内心で溜め息を吐いていた。 「ロジー」 「そうかもしれないけど、私はシューと一緒なんてイヤ。目立つもの」 「そ……っ」 痛いところを突かれた。 何しろこの当時のシュナイダーは、街を歩けばお姉様方に声を掛けられない日はなく、野郎共にも言い寄られるような、紅顔の美少年だったのである。 確かに目立つ。ローザが嫌がるのも無理はない。 しかし、自分ではどうしようもない理由で断られるのは余りにも悲し過ぎる。 そこでシュナイダーは、ほんの少し論点をずらすことにした。 「……僕は幼馴染みを心配しちゃいけないのか?」 「そういう訳じゃ……」 「君と同じように、僕だって、好きで目立つ顔に生まれた訳じゃないよ……」 嫌なことの方が多い幼馴染みに、ついローザも状況を忘れて同情してしまう。 「シュー見てると、綺麗だからっていいとは思えなくなるのが不思議ねー……」 二人同時に溜め息をついた。 「「せめて人並みだったら……」」 全く立場が逆の二人の台詞がハモる。 「……で、決行はいつ?」 「……予定は明日の夜、十一刻」 「迎えに行くよ」
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