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二人は共犯者の顔で笑う。
「二人揃っていなくなったら、カケオチとか言われたりして」
シュナイダーの軽口に、ローザが思い切り吹き出した。
「やぁね、皆、絶対思わないわよ。私が無理矢理、シューを引っ張り出したと思われるのが関の山よー」
大爆笑もいいところだった。
ツボに入ったのか、声すら出ない程笑っているローザに、ほんのちょっとだけ傷付いたシュナイダーであった。
ところが、である。
予定は未定とはよく言ったもので、別邸に戻ったローザは、とんでもない話を聞かされることになる。
「……何ですって?」
ローザは軽く眉を吊り上げた。
「……ですから、明日の朝、すぐにご出立ということに……」
唐突にローザはシャール卿の足をギリッとヒールで踏みつけた。痛みに悲鳴を上げかけた相手を睨み付けて黙らせ、それからローザはまた笑顔を浮かべる。
「ごめんなさい、よく聞こえなかったわ。もう一度お願い」
ぐりぐり。
「で、ですからっ、王のお達しで、明日っ! ご婚礼先に……っっ!!」
更に力を込めたローザの踵には、彼女の全力、いや全体重が乗っていた。
皮のブーツを履いているとは言え、それが凹む程の負荷がかかっているのだ。シャール卿は痛みで声が出なかった。
「……やりやがったわね、あのクソ親父……」
話をローザにした時点で、既に婚礼の準備が整っていたのだろう。そうとしか思えないタイミングだった。
ローザは奥歯を噛み締めた。
と同時に、シャール卿の足の上からどいてやる。
八つ当たりしたところで、どうにもならないことくらい彼女だって分かっているのだ。
「……今から明日の朝まで外出禁止になります」
「城くらいはいいんでしょ。お祖父様に挨拶したいのよ」
「それは許されると思います。しかし、移動は馬車で……」
移動を口実に逃亡するという手段を防ぐ為なのだろう。ローザは騎馬の名手といかないまでも、なかなかの腕前なのである。
ローザはもう一度微笑を浮かべた。
「分かってるわ、よっ!」
ダンッ!
ジャスト、さっき踏んでいた箇所。
「――――ッ!!」
今度こそシャール卿は足を抱えてうずくまったのだった。
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