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因みに、この時まだ一介の騎士に過ぎなかったシャール卿であるが、十八年経った今でも「笑顔のローザ殿下程、危険なものはない」と友人に話すことがあるそうだ。
一方シュナイダーは、自分の屋敷に戻った時点で、ローザの輿入れ話をカーネロから聞かされた。
寝耳に水もいいところ。つい先程、ここから逃げ出す算段をつけていたところなのに、その前に幼馴染みは嫁ぐという。
「……何ですか、それ……」
呆然と呟いた自分の息子に、カーネロはゆったりと構えていた。
「急な話だがな、ローザ姫も十六、縁談が持ち上がってもおかしくはない」
「そうではなく! 何故いきなり明日なんて……」
手際が良すぎやしないかとシュナイダーは訝しんだ。
あの王にしては、用意周到にも程がある。
愚鈍な訳ではないが、謀(はかりごと)の類は不得手な王が、ローザに内緒でことを進められるとは思えない。
結果、導き出された解答は。
「……この件、養父上もかんでますね?」
「そんな言い方をされると、私が悪事を働いたみたいじゃないか」
肯定も否定もしないカーネロを前にして、シュナイダーは逆に確信を得た。
「悪事の方がまだマシです」
自分の愛息子の手厳しい指摘に、カーネロはちょっぴり凹む。
「この件に関しては、彼女の意志を尊重するべきでしょう」
「……そんなに行って欲しくないのかね。ならうちに来てもらうか? お前の嫁として」
容姿云々はともかく、カーネロもローザを嫌いではない。しかしシュナイダーはきっぱりと否定した。
「それこそロジーは首を振ってくれませんよ。僕だってお断りです」
「シューはローザ様が好きなんじゃないのか」
恋愛感情に近いものはあるが、互いにそれを望んではいないので、シュナイダーは首を横に振った。
「好きですが、それとこれとは話が別です。それから、『シュー』と呼ぶのは止めて下さい」
冷たい言い種にカーネロは内心で涙を飲んだ。
シュナイダー本人も気付いていないが、完全に心を許した者にしか呼ばせない愛称なのだ。
ローザと、彼の義弟のレオン。
そこに、未来には優奈が加わるが、今現在、彼をそう呼べるのはこの二人だけである。
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