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器量が良ければと不憫には思えども、それを補って余りある技量、もう一人の孫ラウルよりずっと上だ。
出来ることなら、ロシュナンドを治める女王になって欲しいとすらツェルトは思っていた。
「ローザ、こんな時間に訪ねてきたのだから、ただの見舞いという訳ではなかろう。儂の力を借りたい案件でもあるのかね?」
ローザはうかない顔で、「明日、輿入れと決まりました」と呟いた。
「……それはまた、急な話だ」
あのボンクラ息子、またやりおったな。ツェルトは内心の憤りを穏やかな仮面の下に押し込んだ。
「知らない人になんか、嫁ぎたくありません。まだ結婚なんてしたくないんです」
普通、貴族以上の身分の娘なら、「分かりました」と何の疑問も持たずに嫁ぐのが常識。
それを知っていても、ツェルトはローザを説得しようとは思わなかった。
「……ローザ、そこの文机の上にある箱を取ってくれんか」
大事な物だと言われても、少なくともローザには、無造作に置いてあるようにしか見えなかった。
意図が分からないながらそれを手渡すと、ツェルトは中から取り出した物をローザの前に差し出した。
なかなか凝った造りをしている、金色の小さな鍵。それに合わせてか、金の鎖が通って、首から下げられるようにしてあるようだ。
「これが何に見える?」
「……綺麗な鍵、以外の何にも見えませんけど」
ローザの訝し気な表情とはうらはらに、ツェルトは破顔した。
「これを渡そう。絶対役に立ってくれるだろう。今のところ、お前しか『使えない』筈だ」
含みのある台詞を反芻して、思い当たった事象にローザは思わず声を上げる。
「これ、まさか――女神の装飾具!?」
ツェルトが代理人だと知識では知っていたものの、自分にそれが回ってくるなどとは思いもしなかったローザである。
「幼少の砌(みぎり)に目覚めの儀を行っておるだろう? お前がその資質を持つ者だとは知っておった」
しかし、知る者ぞ知る内容だが、十五歳を越える頃、大抵の者がその資格を失ってしまうのだ。
「……例えそれが悪意であっても、何かしらの信念を持つ者だけが代理人の資格を失わずにいられるのだと、儂は思っておる」
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