昔話

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ローザからの手紙は、一番最初だけを縦に読み取ると、『二こく三ほうもつこ』、つまり二刻に第三宝物庫へ来い、となるのである。 第三宝物庫は他と違い、城の地下ではなく、三階という半端な場所に設置されている。そして、宝物庫と名はついているが、重要性の低い美術品などが置いてあるので、警備は他と比べて幾段か緩やかだ。精々、半刻に一回見回りが来る程度か。 この場所を指定する辺り、ローザには逃げ出せる手だてがあるのだろう。 勿論鍵は掛かっていたが、簡単な造りの錠前が一つ付いている程度である。 (これなら簡単だ) ベルトの留め金に引っ掛けてある小さな針金を取り出すと、シュナイダーは鍵穴にそれを差し込んだ。 ほどなくして、鍵は呆気なく開く。 ローザの暇つぶしに付き合い、遊びのつもりで覚えたことが役に立った訳だが、絶対に誰にも言えない特技である。 周囲に人影がないのを確認し、シュナイダーは宝物庫へ滑り込んだ。人が滅多に来ない為か、中は埃っぽく黴臭い。 そこで息を潜め、じっと待つ。 時刻は真夜中二刻を少し過ぎたところ。 流石に静かだ。 だが、その静寂も長くは続かなかった。 (……何か、騒がしくなった……?) ざわめきが大きくなったのを感じ、シュナイダーが耳を澄ましていると、派手な足音が宝物庫へと近付いて来た。 それと共に、勢い良く扉が開く。 「よっしゃ! 逃げるわよ!」 外の騒がしさはやはりローザの仕業だったらしい。微かに聞こえる声には、「殿下が逃げ出した!」、「探せ!」などというものが混じっている。 「ちょ、何で追われてんの!?」 「見張りを四、五人張り倒して来たからでしょ! 行くわよ!」 「普通、脱走するなら穏便に行動するもんじゃ……!」 シュナイダーの文句を無視し、ローザは窓を開けた。 「さ! 飛んで!!」 自分の荷物を投げた後、躊躇いなくローザは窓から飛んだ。 ここは三階だという突っ込みをする暇もなく、シュナイダーもローザに続いて窓の外に身を躍らせる。 ダンッ 「――――っ!!」 やはり着地の衝撃は厳しく、シュナイダーは歯を食いしばった。
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