昔話

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「大丈夫よね? さ、走って!」 「…………うん」 ローザの催促に、足の痛みを出来るだけ無視して、シュナイダーは走り出した。……折れなくて良かった、と内心で安堵しながら。 「ロジー……こうなるなら、せめて二階にしてほしかったよ……」 恨めしそうに愚痴るシュナイダーに、ローザは一瞬バツの悪そうな顔をするが、すぐ眉を吊り上げた。 「私だって、もう少ーし、穏やかーに行きたかったけど、御手洗いまで見張りが着いて来たんだからしょうがないじゃない!! しかも、侍女でなく騎士がよ!?」 婦女子を何だと思ってるんだ、と憤慨し出したローザの言い分も尤もだと思ったので、シュナイダーは大人しく口を噤んだ。 「それはともかくとして、抜け穴に近いのよね、ここ」 「――え、ちょっと待って! その抜け穴って確か……!」 シュナイダーが青くなった。 ******** 「……つまらん。何故こんなところを見張らねばならんのだ」 「(侵入者がいたら困るからだろ)はぁ、そうですね……」 上司が呟くのは何度目だろうか。 最近見つかった、城壁の穴。巧妙に、外からも中からも発見しにくいように隠されていた、という穴の前に彼ら二人は立っていた。 「見張りなど、私でなくても構わんだろうに。全く、上は何を考えているのか」 「……そうですね」 自分の白い毛並みを何となく撫でながら、彼は適当に相槌を打っていた。しかし、内心では(そりゃ、あんたがフォードック卿の息子にちょっかい出すからでしょうが)と毒づく。 閑職に追いやられたくらいで済んで良かったですね。 そう上司に言ってやりたい気持ちを抑えて、犬顔の彼は欠伸を噛み殺す。同じような愚痴ばかり聞かされて、流石に面倒臭くなっていた。 「……これだけ暇だと、お前でもいいと思えてくるのが不思議なものだ」 何がと尋ねる前に、自分を見る上司の目に嫌なものを感じ、彼はさり気なく距離をとる。 「あははははっ、やだなぁラルコッタ士部長。あんまりふざけたこと言うと……」 後ろから刺されるまで待つのはダルいから、俺が刺すぞ、この野郎。 「……困ります」
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