昔話

14/17

3540人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
後々のことを考えて、賢明にも彼は本音を押さえた。 ――と同時に。 「……ほら、いるだろ、ラルコッタ」 影からそっと様子を見守る二人組。言わずもがな、シュナイダーとローザである。 「あちゃー……」 しくじったとローザが顔をしかめた。 「あの抜け穴、今日見つかっちゃったんだよ。修理するまであいつがいるって……」 「よりによって……ラルコッタ……」 「……性格はともかく、腕は確かだからね、あの腐れ外道」 本当に殺す気でいかないと無理だ。そう冷たく呟いた幼馴染みに、ローザは何とも言えない顔になった。 「……早まっちゃ駄目だからね?」 「大丈夫、切り刻んで魚の餌にしてやるのは今じゃない」 ――十数年後、この言葉を実行しようと考えて、優奈に止められるシュナイダーであった。 「どうしよう、他に回る時間はないし……」 ラルコッタだけならまだしも……と口にしたローザに、シュナイダーが閃いた。 「……上手くいくように祈ってて」 ガサガサッ 少し離れた茂みから、異音。 「む、何だ今の音は」 「ちょっと見て来ます」 いろんな意味で危ない上司から離れられるのが幸いとばかりに、彼は茂みの方へと歩を進める。 こんな人気のないところにいるのは、精々サマリー(兎のような小動物)くらいだろう。 万が一ボラン(お化け)だったら、上司に押し付けて逃げよう。……いや、あの上司なら、ボランも食っちまうかもしれない(深読み推奨)。 そんなことを考えながら、彼は茂みを注意しながら覗いていった。 暫くの後、彼はラルコッタの元へ戻って来た。 「小動物だったみたいですよ。異常なし」 「全くもってつまらんな」 「ええ、そうです――ね!」 ボグッ 何が起こったのかもわからなかったに違いない。棒で後頭部を殴りつけられ、ラルコッタは声もなく倒れた。 気を失っているのを確認し、彼は茂みの方に向かって手招きする。 「いやあ、スッキリしたわ」 「どうもありがとうございました」 ひょっこりと顔を出したのは、シュナイダーとローザであった。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3540人が本棚に入れています
本棚に追加