昔話

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「いやいや、こちらこそ。こいつ殴れて、あまつさえ、人の所為に出来る機会をくれてありがとう」 余程鬱憤が溜まっていたのだろう。彼は手に持っていた棒を捨て、爽やかな笑顔を浮かべた。 ――回想―― 松明の光も届かない暗がりに、人が立っているのに気付き、彼は少し身構えた。 何、本当にボラン? え、ちょっと待って、こんなに綺麗なボランて聞いたことない。 一瞬考えた後、彼は目の前の人物が誰かを思い出した。 「あれ、確か君、フォードック卿の息子さん、だっけ?」 何故こんなところに。時間が時間だけに、彼の疑問も尤もだ。 それに、彼はシュナイダーと面識がなかった。 シュナイダーは、初対面の彼に向かって頭を下げる。 「唐突なお願いで申し訳ありませんが、ラルコッタをどうにかしたいので、手伝って頂けませんか?」 「どうにか?」 「僕はそこの抜け穴を使いたいんです。それで、貴方にラルコッタを殴り倒して欲しいんです。僕の所為にして構いませんから」 突拍子もない頼みにも程がある。 だが、ラルコッタをどうにかするにも、シュナイダーとローザだけでは難しい。 しかしである。ラルコッタは根本的に人の恨みを買いまくっている。故に、駄目もとで一緒にいた彼に協力を頼んでみることにしたのだ。 流石に無理かと一瞬身構えたシュナイダーだが、相手は予想外の反応を示した。 「何それ面白そう」 「へ?」 「いいの? 本気でやっても?」 「あ、は、はい」 「いやあ、査定に響くから我慢してたんだよね。是非やらせて下さい」 逆に頼み込まれ、シュナイダーは「はあ……お願いします……?」と間の抜けた返事をした。 ――回想終了―― 死んだように動かないラルコッタを、シュナイダーは虫けらでも見るような目で見下ろした。 「もし死んでも、僕の所為にして構いませんから」 「大丈夫、こん位じゃ絶対死なないよ、この人。しぶといから」 「なら、もう二発くらいやっても良かったのに」 「しまったな、そうすれば良かった」 シュナイダーと彼は、残念そうな顔を見合わせた。
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