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いくらラルコッタでも、気絶してるところに止めを刺すのは気が咎めたのだ。
「「一発で寝てなきゃね……」」
ローザは、二人の怖い会話に敢えて突っ込まない。
「大体俺、銀の鎧じゃないんだよね。部署も違うのに、お守りさせようってのが間違い。敬える上司と敬えない上司っているからさ」
歯に絹を着せない彼に、シュナイダーは好感を抱く。
「僕なんか、この敬うどころか、抹殺したいくらいの上司がいる、銀の鎧に配属されそうだったんですよ」
「ありゃりゃ、最悪。しかも見る目無さ過ぎだよ、上の人」
彼は彼でシュナイダーを気に入っていた。
ああいう状況で、見ず知らずの彼を懐柔しようという発想は、一見無鉄砲にも思えるが面白い。度胸もある。
(ローザ姫だってなかなかいい腕してるって聞くし、残念だなぁ。化けるまで育ててみたいよなー)
これが銀の鎧になんか収まっていられる人材の訳がない。金の剣にだって勿体ない。
だから優秀な人材腐らすんだよ、と彼は内心でボヤいた。
「シュー、そろそろ行かないと」
「あ、引き留めてごめんな」
心なしか、人の気配が濃厚になってきている。このままここで世間話などしていれば、見つかること必至。
ローザは、予定通りに彼を遠慮なく縛り上げた。
「最終確認。ラルコッタは君に殴られて気絶。俺はそこのローザ姫と君の二人ががりでやられて、不覚をとって縛られた、と。これで良かったよな?」
「概(おおむ)ねそんなところでいいかと。脚色はお任せします。――本当に済みません、何から何まで」
見習いを卒業したばかりのひよっこと、そこそこ腕の立つ姫にしてやられたなど、不名誉なことこの上ない。
「この程度、全然問題ないよ。すぐ挽回出来るから気にすんな」
彼は茶目っ気のある笑顔で、器用に片目を瞑ってみせた。
「あのさ、もし戻って来たら俺のとこおいで。何年かしたら、偉くなってる予定だから」
「ありがとうございます。機会があれば……」
「いやいや、社交辞令じゃなくて。漆黒の槍は、シュナイダー・フォードックを歓迎するよ。もしやる気があるなら、ローザ姫もね。俺が保証する」
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