昔話

16/17

3540人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
いくらラルコッタでも、気絶してるところに止めを刺すのは気が咎めたのだ。 「「一発で寝てなきゃね……」」 ローザは、二人の怖い会話に敢えて突っ込まない。 「大体俺、銀の鎧じゃないんだよね。部署も違うのに、お守りさせようってのが間違い。敬える上司と敬えない上司っているからさ」 歯に絹を着せない彼に、シュナイダーは好感を抱く。 「僕なんか、この敬うどころか、抹殺したいくらいの上司がいる、銀の鎧に配属されそうだったんですよ」 「ありゃりゃ、最悪。しかも見る目無さ過ぎだよ、上の人」 彼は彼でシュナイダーを気に入っていた。 ああいう状況で、見ず知らずの彼を懐柔しようという発想は、一見無鉄砲にも思えるが面白い。度胸もある。 (ローザ姫だってなかなかいい腕してるって聞くし、残念だなぁ。化けるまで育ててみたいよなー) これが銀の鎧になんか収まっていられる人材の訳がない。金の剣にだって勿体ない。 だから優秀な人材腐らすんだよ、と彼は内心でボヤいた。 「シュー、そろそろ行かないと」 「あ、引き留めてごめんな」 心なしか、人の気配が濃厚になってきている。このままここで世間話などしていれば、見つかること必至。 ローザは、予定通りに彼を遠慮なく縛り上げた。 「最終確認。ラルコッタは君に殴られて気絶。俺はそこのローザ姫と君の二人ががりでやられて、不覚をとって縛られた、と。これで良かったよな?」 「概(おおむ)ねそんなところでいいかと。脚色はお任せします。――本当に済みません、何から何まで」 見習いを卒業したばかりのひよっこと、そこそこ腕の立つ姫にしてやられたなど、不名誉なことこの上ない。 「この程度、全然問題ないよ。すぐ挽回出来るから気にすんな」 彼は茶目っ気のある笑顔で、器用に片目を瞑ってみせた。 「あのさ、もし戻って来たら俺のとこおいで。何年かしたら、偉くなってる予定だから」 「ありがとうございます。機会があれば……」 「いやいや、社交辞令じゃなくて。漆黒の槍は、シュナイダー・フォードックを歓迎するよ。もしやる気があるなら、ローザ姫もね。俺が保証する」
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3540人が本棚に入れています
本棚に追加