昔話

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「漆黒……ですか」 この時シュナイダーの漆黒の槍への認識は、他と同じく『出世は望めない変わった部署』だった。 しかしながら、今からの脱出劇を考えれば、帰って来たとしても出世コースから外れることは必至。それを考えれば、面白そうな上司がいるところの方がいいに決まっている。 「なら、戻って来れたら……その時はお願いします」 「言ったね? そん時嫌だって言っても遅いからね。受け付けないからね」 「言わないですよ、きっと」 「私も誘ってくれてありがとう。シュー、行くわよ」 「そんじゃ、またな」 彼は縛られて使えない手の代わりに、自由な足を振って見送ってくれた。 それが、後に漆黒の槍隊長となるミュレ・ウェールズとシュナイダーの出会いであった。 ******** 周囲が明るくなった頃、二人は民家から拝借した(だが、市価の倍額と「ごめんなさい」という手紙置いてきた)馬に乗って、首都からかなり離れた場所にいた。 追っ手はまだ街中を探している筈だが、外だと気付かれるのも時間の問題だろう。 「これからどうする?」 「アルランにいたらそのうち見つかっちゃうわ。だから、お父様の手が届かないトッドに行こうと思ってるの」 港へは馬であと一日程。包囲網が広がらないうちにさっさととんずらするのがベストだ。 「引き返すなら今のうちよ」 「愚問だよロジー」 ローザの最終警告に、シュナイダーはここまで来てと小さく笑った。 「それに、『今のうち』じゃない、『今更』だろ?」 「まー、そーなんだけどー……」 「どこまでも一緒に行きますよ、お姫様」 それってイヤミ? と益々ローザは口を尖らせた。 二人の話は、今回はここまで。 昔話故、また語る機会もあることでしょう。 続く?
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