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姫曰わく、光の花を異世界では、『花火』と言うらしい。
夜空に咲く大輪の花の美しさは、どの世界でも変わらないようだ。
「こっそり連れて行って」
せっかくの祭りなのに、攫われかけたり、殺されかけたりした姫の心情を慮れば、言いたくなる気持ちも分かる。
けど、本人も無理なのは分かっていて、冗談にしたのが何とも可哀想だった。
……なのに、オレは答えられなかった。冗談にしてくれても、『行こう』と言ってあげられなかった。自分の性格が嫌になる。
ルークならもう少し気の利いたことが言えるだろうに。
次はもっとマシに出来るだろうかと考えて、「次、来ることあるかどうかも分からないし」との言葉を思い出す。
次……はないかもしれない。
これきり会えないかもしれないなんて、正直、嫌だった。
姫がする、知らない世界の話と自分の話、オレがする他愛のない話。
上手くない喋り方でも、姫は相槌を打ち、時には笑いながら一生懸命聞いてくれた。
優しい気持ちになる。
そういや、『幸せ』って、こんなものだったっけ。
長いこと忘れていた気がする。
肩口に感じた重みで我に返ると、姫はオレにもたれて眠ってしまっていた。
無理もない。今日はいろんなことがあった。先刻まで元気に会話をしていた方がおかしいくらいなのだから。
不覚としか言いようがないが、オレでも睡魔に負けてしまったのだ。姫が勝てるとは到底思えない。
「レイナ様、こんな所で寝ては駄目ですよ」
「……い、……わーってまふ……」
……分かっていないのは明白だ。
揺さぶって起こすのは可哀想な気がして、余り強く出来ない。それに、姫君にみだりに触ってはいけないというのは不問律。
オレは途方に暮れる。
こういう場合、どうしたらいいのか分からない。そもそも、異性に寄っかかられるというのが初めての体験だった。
「……ん」
そうして思案する間にも、姫と接触する部位が増えていく。
そして、少しずつ重みが増していく。
重さ自体に大したことはないが、この方は王族で高貴な身分の方なのだ。やはりこのままにしてはおけない。
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