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本当に困った。
……困ってはいるが、理性に反して、このままでいたいように思ってしまうのは何故だろう。
姫はもう目を覚ましそうにない。それどころか、体の全てをオレに預けるかのようにして、もたれかかり、ぴくりともしない。
……誰にでも、こんなに無防備なのだろうか。オレだから、だったらどんなにいいか。
姫は言葉では表せない程美しい人だ。それだけじゃない、子供みたいに素直で、真っ直ぐで、冬の初めの雪のようにまっさらな心を持つ、稀有な人。
人となりを知れば知る程、ちょっとしたワガママすら、愛しく思える。
造形だけではなく、全てが美しい。
なのに、どうしてオレなんかの運命の人に選ばれたのだろう。姫とオレではつり合わないこと甚だしいのに。
段々暗くなっていく思考に引きずられ、気分まで重くなっていく。
……しまった、こんなことを考えている場合ではなかった。
静かな室内で、ただ寝息だけがオレの耳に届く。
このままでいることは、もう少しだけなら許されるだろうか。そんな不遜なことを思う。
途端、姫が肩口で寝やすい位置を探すかのように動いた。
不意に自分の中に湧き上がった衝動が、姫にとって良くないものだと気付く。
……非常にマズい、このままでは『何か』に負けてしまう。ローザ様に失礼だが、そちらへ運ばせてもらおう。
オレは姫を、なるべく余計な接触をしないように、そっと慎重に動かした。
この時点で起きてくれれば何の問題もないのだが、予想通り反応はない。
今だけは許してもらおう。オレは姫の背中に手を回した。
――軽い。
横抱きに抱え上げると、余計そう思う。
前も思ったが、世間一般の婦女子というのは皆こんなに軽いのだろうか。
そして、小さくて柔らかく頼りない。
自分とは全く違う生き物だと改めて意識する。
「……ん」
腕の中で姫が身じろいだ。
途端に、理性が「限界だ」と訴えたので、オレは寝台へ急いだ。
「ローザ様、お休みのところ失礼致しま……」
「……ギリギリ合格」
そんな言葉と共に、天蓋の薄膜が内側から開かれた。
勿論ローザ殿下だ。
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