彼と彼女とその夜と

4/4

3540人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
何がギリギリで合格なのかは見当もつかないが、ローザ殿下は明らかに面白がっているようだった。この方はイマイチよく分からない。 「ごめんなさいね、ロシュ。レイナちゃんはここに寝かせてちょうだい」 「はい」 寝台にゆっくり横たえると、姫がすぐさま寝返りを打った。 背を向けられ安堵と軽い落胆が綯(な)い交ぜで、変な気分だ。 「それじゃ、お休みロシュ」 ローザ殿下はそれだけ言うと、もう用はないとばかりに薄膜を閉めた。 「……お休みなさいませ、ローザ殿下」 一抹の寂しさを感じたものの、オレも定位置に戻る。今はまだ仕事中だということを忘れてはいけない。 それなのに。 『静かだね』 先程の声が浮かんだ。 本当に静かだ。 ローザ殿下を起こさないようにと気を使いながら喋る姫の、小さな吐息混じりの声が耳を離れない。 小さくて、細くて……。 ……何だか、色々と自分が駄目な奴だと思い知った夜だった。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3540人が本棚に入れています
本棚に追加