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顔では、困った子ねという表情のまま、美伊奈は考え込んでいた。
「ママ、ママ、一生のお願い」
その台詞が出てきた瞬間に、美伊奈はもうムリっ! と内心で叫んだ。
「……優奈ちゃん、一生のお願いはもっと大事な時に使わなきゃね。しょうがない、今回だけだからね」
そして思ったのが、冒頭の台詞である。何て人でなしな。
これを知れば、優奈は思い切り傷ついたに違いない。
「……それでひよこがいるんだね」
優奈はもう眠ってしまっている。
政義はおやおやと小さく苦笑した。
「だって……」
「ひよこは弱いから、ちゃんと面倒を見なければね。僕も小さい頃買ってもらったことがあるけれど、三日くらいで死んじゃったんだ」
「そんなに弱いの!?」
美伊奈は、優奈が『ピヨ』と名付けたひよこを見下ろして冷や汗を流した。
向こうの世界にいる生き物の雛と酷似しているために、そんなにヤワなものだとは思わなかったのだ。
「どうしよう、優奈ちゃんが泣いちゃう」
自分の方が余程泣きそうな顔をしているというのに、娘を気遣う美伊奈を政義は優しく引き寄せた。
「うちの奥さんは心配性だね。僕の時はそうだったってだけだから。ちゃんと育つよ」
多分とつけなかったのは、政義の優しさだろう。
「ただし、育ってから、優奈に無断で料理しちゃ駄目だからね」
政義の、内心を見透かすような台詞に、彼女はえへへと悪戯っぽく笑った。
美伊奈の杞憂を余所に、ひよこは一週間経っても元気いっぱいだった。
優奈は幼稚園から帰ると、真っ先にピヨの元へ駆け付ける。なかなか微笑ましい光景であった。
それが続いたある日、美伊奈は気付いてしまった。
ひよこが、全く育っていないということに。
政義の話では、可愛いのは少しの間だけで、すぐに成鳥の姿になっていくと聞いていただけに、愛らしさを何時までも失わないひよこの姿は、一種奇妙だった。
しかも、ひよこの形態のまま大きくなっている気がする。
(……もしかして)
これはアレではないのだろうか。何故こっちの世界に紛れ込んでしまったのかはわからないが、確かめて見なければ。
朝、美伊奈は優奈を幼稚園へ送り出してから、ピヨを触ってみた。
すると、脚二本の後ろにこぶのようなものが二つあるのに気付いてしまった。
もう間違いない。コレは、アレだ。
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