或る男

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どんな場所にも光があり闇がある。 ここアルラン大陸の首都ロシュナンドにも、地元民は決して近寄らない地区がある。 街警備の騎士ですら、入れるのは手前の貧民街まで。この場所に干渉しないのが暗黙の了解となっている。 暗黒街スラシュナ。 それが彼、ザイン・ローグのホームグラウンドである。 久し振りに訪れたそこは、昼でも薄暗く澱んだ空気に包まれていた。いつ来ても変わらないとしみじみ思いながらも、ザインは建物から出て来た男に声を掛けた。 相手も彼を認めてニヤリと笑む。 「ザインじゃねぇか、久し振りだな」 「おぅ、じいさんは?」 「あの方のことなら、セイムさんに聞いた方がいいと思うけど、多分何時ものとこじゃねぇの」 「ありがとよ、じゃあな」 あまりに素っ気ない態度のザインを男が「ちょっと待てよ」と呼び止めた。 「お前なら知ってるだろ? 噂のレイナ姫って、本当に美人なんか?」 例え王宮での出来事でも、スラシュナには疾風の如く伝わるのだ。情報の出どころを追求したところで意味がないのは皆が知っている。とはいえ、下まで回るにはもう少しかかるだろうが。 「……美人てか、最初は神々しすぎて声出なくなるだろうな。だからって、高慢ちきじゃねぇし、誰に対しても優しいし、超真っ直ぐでお人好しって話」 興味津々に聞いてくる男に、ザインは事も無げに答える。 「それ、もろお前の嫌いな世間知らずじゃん」 「違いない」 だけど気が強くて意地っ張り、見た目との差異があり過ぎる。という言葉は付け足さないでおく。何故そんなに詳しいのかと突っ込まれても面倒だからだ。 「はー、そんな女と一回やってみてぇな」 「お前の面じゃ一生無理だ」 「言ったなこの野郎」 そんな軽口を交わし、ザインはスラシュナの中心部へと歩を進めた。 ******** ザイン・ローグは親の顔を知らない。 生まれてすぐ貧民街の路地裏に捨てられたからだが、ここらではありふれた話だ。大抵は飢えて死ぬか、獣に食われて死ぬ。 だが、そんな彼を気紛れに拾った男がいた。
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