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「ええ。しかしながら、ザインさん以上の腕はないようですがね。ただ、こちらにもザインさんを超える者はいませんので、何ともし難い」
「俺、用事があんだけど」
『遊び』ならザインは負ける気がしないが、本拠地と言えども、戻ったのは彼の本意ではなく、あくまでも時間短縮が目的なだけに時間のロスは痛い。
とは言え、身内を見捨てる訳にもいかない。
「時間を使わせた分、ちゃんと見返りは用意しますよ。例えば……
……情報とか、ね」
ザインは口を噤んだ。
彼をこき使えるのは現在の仕事の上司と、ザインの口に上る『じいさん』こと、スラシュナの元締めでありザインの養い親であるチェザーリ老くらいのものだ。
そして、セイムはあくまでもナンバーツー。彼が有能なのは周知の事実であるが、独断でザインに話を持ちかけたとは考え難い。
となれば、答えは一つ。
セイムはどことなく人好きのする顔で笑っていた。そこには何の含みもないようにみえるが、セイムが外見と同じように真っ白ではないこともザインは知っている。
「……やれやれ、まだまだじいさんの掌の上かよ。ったく、敵わねぇな」
癪ではあるが、借りを作らずに済む分マシかとザインは開き直ることにした。
********
男が死んだ後、頼れる者がザインには一人もいなかった。
幼い子供でも、五歳となれば働かされる。それがザインの生きている世界のルールだった。
だから生きていく為に、男から仕込まれた技術を使うことに躊躇いはなかった。例え、それが一般的な常識に照らし合わせて良くないことだったとしても。
それから一年近く、男がねぐらにしていた場所で寝起きし、仕事をしては糧を得ていたザインだったが、一人ぼっちの生活は唐突に終わりを告げた。
ある夜、いや明け方も間近に、ザインは首根っこを掴まれて、無理やり寝床から引きずり出された。
部屋には数人の大人達。ザインは寝ぼけ眼を擦りつつ、状況の把握に努めた。
「散々シマ荒らしやがって! 元締めになってる奴が戻って来たら、二度と仕事が出来ないようにしてやれ」
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