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「兄貴、このガキどうします? モリーのとこにでも売り飛ばしますか? この程度の面なら、問題ないでしょうよ。子供がいいって奴はいくらでもいるし……」
寝ぼけていたザインから血の気が引いた。
散々男に言われていたのだ、『モリーの館にだけは連れて行かれるな』と。男は最後まで理由を教えてくれなかったが、怖いところだとザインに教え込んでいた。
「そ、それは仕事が出来ないか、むちゃくちゃ綺麗な奴が行くとこだろっ! 俺はどっちでもない!」
「……お前、モリーの館がどんなとこか知ってるのか?」
「……知らない。でも、オヤジがそう言ってた……」
幼い子供に詳しく話さないのも当然だろう、モリーの館は所謂娼館だ。だが扱っているのは、成人女性だけではない。『あらゆる快楽を揃えております』という最低な看板を下げているのがモリーの館である。
蛇足ながら、普通の性癖の人間はほとんど行かない。
「ほー……、しっかりした親父だな。で、そいつはどこにいる?」
「いない。死んだ」
「いつ」
「百を三回と十一日前」
この頃のザインは、百までしか数を知らなかった。しかし、拙い説明でも流石に皆が驚いた。
「大人は? 誰かいないのか?」
「俺だけ」
群れもせず、子供一人で一年近く生きていくのは難しい。ましてや、こんなやせっぽちの子供だけで仕事をしていたなど、普通なら有り得ない。
「嘘つくんじゃねぇよ」
「ついてない」
「まあ待て、それが本当でも嘘でも、こいつが優秀なのに間違いはない。なら、誰もついてない方が好都合ってもんだ」
兄貴と呼ばれた男が、ザインを放すように促す。
「おい、名前は?」
「ザイン」
「そうか。ザイン、この世には決まりがあってな、決まりを破ったら罰があるんだ。でもな、お前がうちに来てちゃんと仕事をするなら、飯も食わせてやるし、もう少しいろんなことを教えてやるし、罰もなしにしてやる」
最後に、「モリーんとこ、行きたくないだろ?」と凄まれれば、ザインが選べる選択肢は一つしかなかった。
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