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「んで、お客サマはどこにいんの」
「こちらです」
セイムがザインを奥へと促す。蝋燭が点々としか照らしていない暗い通路を通り抜ければ、明かりが煌々と輝く豪奢な部屋へと到着する。
中にはセイムが言っていた男達と、セイム以外の幹部と大元締めたるチェザーリ老が席に着いていた。
さっさと済ませて、とっとと帰るか。正直暇じゃない。ザインの感想はこんなところだ。
「こんな若造を代表に出してくるとは、スラシュナのチェザーリ老もオチたもんだな」
男達から品のない笑い声が上がる。
「――おいおい、おっさんら、人は見かけで判断するもんじゃねぇよ? じいさんが耄碌したかどうかは、俺と遊んでから決めな」
舐めきっているなら、それでよし。
楽に勝たせてもらえそうだと思ったザインは、舐めきっているのはこちらも同じかと口元を微かに吊り上げた。
いくらザインと言えど、失敗すれば先はない。元締めたるチェザーリ老の養い子でも、ルールはルール。
今までの貢献度が高いので命までは取られないだろうが、スラシュナから追放程度で済めば儲けもの。下手したら腕一本は持っていかれるだろう。
「こいつはマルチェドの大会で三位になったことがあるんだ。滅多な相手にゃ負けねえよ」
「へぇ……?」
用意された盤面を見据え、ザインは楽しめそうだとほくそ笑んだ。
「……負けだ……」
相手の一言で、ザインも疲労感に深く息を吐いた。たった一勝負というのに、何刻経ったかも分からない。
(あー、勘が鈍ってる。弱いのと戦ってばっかだとダメだなー……)
苦戦した自分に腹が立つ。そして苦戦させた相手には敬意を。
久し振りに手応えのある相手だったのだが……、敗北した人間の末路は決まっている。
「……なあ、じいさん」
「言いたいことは分かるがな、お前の報酬はそれじゃなかろう」
「む、そうくるか」
相手が大したプレイヤーでなかったら、ザインはどうなろうと知りはしないというスタンスを貫いた筈だが、彼は趣味や自分の欲求に素直な男だった為、自分が負かした相手の技量を純粋に『惜しい』と思った。
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