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勿論、重要度は仕事上必要な情報の方が上。比べるまでもない。
しかし、ザインの天秤に乗せた途端、比重が上へ下へと定まらなくなるのである。
そんな彼の性格を知っているチェザーリ老は、ザインが報酬として余分な請求をしないようにと釘を刺したのだ。
「でもよ、あいつ、かなり出来る。俺の代わりに貴族と賭でやらせたら、かなり稼ぐと思うけど?」
「だからといって、こちらから身柄引き渡しを要求すれば、何をふっかけられるか分からぬよ」
元々こちらの利権を奪う気の相手だ。足元を見られてはたまらない。
だから見捨てろと暗に示されて、ザインが出した答えは。
「なら、俺が個人的に買う。止めんなよ?」
違う選択肢だ。
「あのさ、それ貰っていいか」
セイムが止める間もなく、ザインが今まさに連れて行かれようとする男を指差した。
「どうせ始末するだけだろ? なら、俺に売り払った方が得だと思わねえ?」
「何だお前、こういう面が好みなのか?」
「面っつーか、楽しめそうだろ、個人的な趣味として。生かすも殺すも俺次第」
ニヤリと笑ったザインも、何がとはわざと口にしない。
男にも打算が働く。始末する手間も省けるし、端金でも多少の利益にはなる。なら、捨てて行っても構わないだろう、と。
買われた先で彼がどうなろうと知りはしない。
「幾ら出す気だ?」
「こんくらい」
ザインが指を一本立てると、男は首を振った。
「話にならん。せめて片手、だな」
「マジかよガメついなー、じゃあ二本」
「四本」
「うー、じゃあ三本でどうだ!」
「ギリギリだが、手を打ってやる」
「よっしゃ! セイム、俺のとこから三千持って来てくれよ」
「「は?」」
単位は勿論、万だ。
三百でなく三千? と、皆の予想と一桁違う金額に、間抜けな声が上がる。
買われた本人ですら呆然と目を見開いていた。
「何だよ、今更ふっかけようったって、そうはいかねえからな」
「いや……」
セイムが持ってきた幾つもの皮袋の中身を確かめ、男は黙り込んだ。
人一人買うのにこれほどの大金を払うとは、余程の馬鹿か、余程薄暗い趣味でもあるのか。
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