或る男

8/11

3540人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
詮索しないのが長生きのコツだとばかりに、男は仲間と共にそのまま無言で去って行った。 「ザインさんは本当に酔狂な方ですねえ……」 「……あれは、紙一重だからのう」 大物なのか、それとも馬鹿なのか……。 セイムとチェザーリ老が同時に溜め息をついた。 貯金をはたいて買ったものの、どうこうしようという明確な意思はなく、言わば処分品の衝動買い。勿体無いから買っちゃった程度の気持ちなので、彼を前にして、ザインは腕を組んだ。 さてどうしよう。 「……俺をどうする気だ? 慰み者にでもするのか」 衝動買いされた高額商品である彼が、ザインを警戒するのは仕方のないことである。 「えー……? いくら綺麗でも、俺、女しか無理。期待してたんなら悪ぃけど……」 一歩引いたザインに「してねぇよ!」とすかさず突っ込みが入った。 「なら同情か」 「はあ? 冗談だろ? 同情で大金出す馬鹿がどこにいるよ」 あの方なら出すかもしれないけどとザインは思ったが、それを目の前の彼に言う必要はどこにもない。 「……単に、なかなかいないから。俺が――で真剣に打てる奴って」 ザインがぼそりと呟いた。 「今んところ、死んだら惜しいかなと思った。俺、たまーに戻ってくるから、そん時に相手になってくれたらいい。それ以外は……あー、じいさんに聞いてくれ」 考えるのが面倒になり、ザインはチェザーリ老に丸投げすることにした。 「……ちょっと待て、たったそれだけの為に俺を!?」 「そーだけど?」 それが何か? と言わんばかりのザインの態度に、彼は絶句した。 「あ、逃げたら今度こそ命はないと思えよ……。けど、もし俺に三千万返せたら自由。好きにしていいからなー」 あまりに適当な言い種で、彼はもう何も言う気が起きなかった。 ******** ザインが『それ』を覚えたのは、組織に属してから二月目のことだった。 一年一人で生き延びただけあって、ザインは優秀な子供だった。故に大人からは可愛がられたが、同年代の子供達からは妬まれ疎まれた。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3540人が本棚に入れています
本棚に追加