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詮索しないのが長生きのコツだとばかりに、男は仲間と共にそのまま無言で去って行った。
「ザインさんは本当に酔狂な方ですねえ……」
「……あれは、紙一重だからのう」
大物なのか、それとも馬鹿なのか……。
セイムとチェザーリ老が同時に溜め息をついた。
貯金をはたいて買ったものの、どうこうしようという明確な意思はなく、言わば処分品の衝動買い。勿体無いから買っちゃった程度の気持ちなので、彼を前にして、ザインは腕を組んだ。
さてどうしよう。
「……俺をどうする気だ? 慰み者にでもするのか」
衝動買いされた高額商品である彼が、ザインを警戒するのは仕方のないことである。
「えー……? いくら綺麗でも、俺、女しか無理。期待してたんなら悪ぃけど……」
一歩引いたザインに「してねぇよ!」とすかさず突っ込みが入った。
「なら同情か」
「はあ? 冗談だろ? 同情で大金出す馬鹿がどこにいるよ」
あの方なら出すかもしれないけどとザインは思ったが、それを目の前の彼に言う必要はどこにもない。
「……単に、なかなかいないから。俺が――で真剣に打てる奴って」
ザインがぼそりと呟いた。
「今んところ、死んだら惜しいかなと思った。俺、たまーに戻ってくるから、そん時に相手になってくれたらいい。それ以外は……あー、じいさんに聞いてくれ」
考えるのが面倒になり、ザインはチェザーリ老に丸投げすることにした。
「……ちょっと待て、たったそれだけの為に俺を!?」
「そーだけど?」
それが何か? と言わんばかりのザインの態度に、彼は絶句した。
「あ、逃げたら今度こそ命はないと思えよ……。けど、もし俺に三千万返せたら自由。好きにしていいからなー」
あまりに適当な言い種で、彼はもう何も言う気が起きなかった。
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ザインが『それ』を覚えたのは、組織に属してから二月目のことだった。
一年一人で生き延びただけあって、ザインは優秀な子供だった。故に大人からは可愛がられたが、同年代の子供達からは妬まれ疎まれた。
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