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彼からすれば、どうして自分の出来ることが、他の者に出来ないのかが分からない。会話の中味も、大人に比べたら子供っぽい(子供なのだから、当然だ)し噛み合わないので、必然的に大人と会話することが多くなる。
その日、一日のノルマとされている金額を難なく稼いできたザインは、遊びに興じる二人の大人をじっと観察していた。
正確には、その遊びの方をじっくり見ていたのだが、気付いた一人がザインを呼んだ。
「お前もやるか?」
「おいおい。まだ無理だろ、こんなガキじゃやり方を覚えるのだって一苦労だって」
「教えて」
やる気満々のザインに一人が苦笑した。
……のが、一刻前のこと。
「……嘘だろ」
「もっかいやる?」
「やる……、もう一回やるぞ!」
喜色満面のザインと顔色を失った男が二人。
先刻までルールも知らなかった子供に、完膚なきまでに負かされたのだから、二人の反応は尤もなものだろう。
「俺、他の奴連れてくるっ!」
誰かこいつを負かしてくれ。そう思ったのは、二人同時だったのかもしれない。
「面白いね、これ」
珍しく子供らしい無邪気な笑顔を浮かべながらも、ザインは盤面から目を離さない。
「これ、なんて遊び?」
「……『ルピリア』、だよ」
ものの五拍(五分)程で詰んだ自分の駒を見ながら、男は力無く告げた。
********
「約束のものです」
セイムが一枚の洋皮紙をザインに渡した。
スラシュナのネットワークで調べたにしては内容がお粗末過ぎる。報酬の中身を確認したザインが眉間に皺を寄せた。
「……裏が取れてんのはいいけど、何か少なくねぇか、これ」
嘘はないだろうが、余りにも情報が少ない。
セイムから渡された紙には、人身売買組織のアジトの場所も記してあるが、もう何かしらの手が入った後なのは想像に難くない。
「いろいろあるんですよ。騎士団に先に動かれると、こちらでも対処出来ないことがあるのでね。これ以上の詳細を明らかにするのは、あと二日程待って頂きたい」
「四日かかってこれだけとか、俺の技量疑われちまうっての。貸しにすんぞ」
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