3540人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
人の良さそうな笑みを浮かべ、セイムが答えた。
「貴方の勝手な行動と相殺、ということで貸し借りなしにしましょう」
「う……じいさん、怒ってんの?」
「いえ、ことが運良く運んだので、お咎めはありません。……ただ、呆れてはいました。今後は、このようなことがないようにお願いします」
「……へい」
セイムはチェザーリ老の代弁者でもある。流石にザインでも、最終的に彼らには逆らえない。
「あ、最後に一つ。俺の予想は?」
「ほぼ間違いないかと」
「やっぱりな」
全容は見えている、犯人も分かっている。付け加えれば、売り飛ばされた『商品』を誰が何人買ったかということまで、チェザーリ老が全て把握しているだろう。それらと懇意にするか、金を引き出すネタにするのか。それを決めるのもチェザーリ老だ。
だからザインは、見ず知らずの人間を助けるのは別の者、というスタンスを崩す気はない。彼の仕事は、あくまでも『黒幕を突き止める』ことなのだから。
「ったく、面倒だ」
それとは別で、全部判明しているのに、情報を小出しにする必要があるのがザインの癪に障るが、表にも裏にも義理は欠けない。
「あ、そっちから連絡なくても、二日……、場合によっちゃ俺の判断で報告すっからな。それだけはじいさんに言っといて」
「その辺はチェザーリ老も分かっていらっしゃいますよ」
ザインはつまらなさそうに鼻を鳴らした。いつまで経ってもあの老人に勝てる気がしないザインであった。
「……んっとに、花冠祭だってのに、楽しむ暇もねえよ」
有能で人使いの荒い上司の姿を思い浮かべ、ザインは溜め息を零す。
「おや、女性と一緒に歩いていたと聞きましたが?」
「あれは仕事の一環。後で大目玉くらったんだかんな」
スラシュナ関係の私用で離れたはいいものの、一緒に護衛についていた友人には悪いことをした。
おやおやとセイムが目を細める。
「上に従うのが嫌いなザインさんがよく我慢してますね。嫌になったら戻ると言っていたくせに」
「今んとこ嫌じゃない。だから戻らない。そんだけだ」
最初のコメントを投稿しよう!