ある生き物の話

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(馬、だ) あちら側から卵で流れついたのだろうか。 こうしちゃいられない。優奈に間違った知識(ひよこはひよこのまま大きくなる。そして後ろ脚が生える)がインプットされる前に、何とかしなければ。 「ピヨ」 美伊奈が名前を呼んでやると、ピヨはぴぃと返事をして、話しかけられるのを待つかのように、じっと彼女を見上げている。この賢さは、絶対にこちらの鳥類の雛が持ち得ないものだ。 「ごめんね、あなたはここにいちゃいけないのよ。優奈ちゃんと一旦お別れしてね」 ピヨは嫌がるように、びーっという鋭い鳴き声をあげた。 馬は、雛時分から愛情を持って育てた人間を慕う。多分、優奈と離れて育ったとしても、優奈の命令は絶対きくに違いない。 「だから、大きくなるまでちゃんと育ててくれる所に行こうね。あなたがいい馬になれば、優奈ちゃんに会えるわ」 ピヨはうなだれた(ように見えた)。 翌日、美伊奈は優奈に、「病気の子がいてね、すっごく大事にするから、ピヨちゃんをちょうだいって言われちゃったの」という嘘八百な作り話をした。 最初は頑なに拒んでいた優奈も、美伊奈の嘘っぱちを信じて、「絶対大事にしてって言ってね」と涙ぐみながら、ピヨを手離す決心をした。 流石に美伊奈も、優奈と同じ年の、外に出られない可哀想な女の子の話を信じた彼女に、胸が痛んだ。 そして補足ながら、この頃からの優奈の素直さ(騙され易さ)は、現在も健在なのである。 その後、ピヨはシュナイダー・フォードック卿によって、非常に賢い馬に育て上げられ、優奈の愛馬となるのだが、それはここから十二年後の話である。 end
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