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運命の人。
それは女神が与えた、優奈曰わく、「呪い?」なのであるが、その呪いとしか言いようのない運命を与えられてしまった可哀想な人が、首都ロシュナンドの騎士団に一人いる。
ホロク・ドレナンテ隊長である。
見た目は金色の毛並みの、人型に例えれば、なかなかの美形に入る部類ではあるのだが、彼の性格はお世辞にも良いとは言えなかった。生まれも育ちも見事に高慢な貴族の見本のような彼は、部下にも受けが良くない。
特にシュナイダー・フォードック卿とマリアローザ・ラル・ロシュナンド殿下には蛇蝎の如く嫌われているが、それを気にも止めず、我が道を行く。
そしてその日は奇しくも、優奈が「トッドへ行く!」と宣言した日であり、城から逃げ出す十何時間か前のことであった。
「貴公は相変わらず、王族に取り入るのが上手いと見える」
また始まった。シュナイダー卿はすぐさまそう思ったという。
貴族のたしなみか何か知らないが、こういった嫌みの応酬をシュナイダー卿は毛嫌いしている節がある。それは彼が市井の育ちに近いからであろう、が、今回ばかりは素直に聞いてやる気はなかった。
「貴殿、私の心配より、自分の心配をした方が身の為だぞ」
普段と違った態度にホロクは片眉を吊り上げる。
「どういう意味かな?」
「これから私がトッドへ向かうことは、貴殿も知っているだろう?」
「それが?」
「その間、私の代理を務めるのが誰か知っておられるか」
暫し考え込んだのち思い当たった人物に、ホロクは青冷めた。
「……まさかとは思うが、リドリー・ロレンゾ……?」
「そのまさかだよ、ホロク」
突然背後からかけられた声に、ホロクは悲鳴すら上げられず、体中の毛を逆立てた。
「やあロレンゾ、息災のようで何よりだ。ライオネルド、大変だっただろう?」
「街外れはまだチープル(猪のような生物、食べられる)が出るな、今度総出で駆逐するか」
住人に危害が及んだら大変だとライオネルドは難しい顔をして腕を組んだ。
ライオネルドはリドリーを出迎える為に隣、と言ってもかなり距離のある村まで行っていたので、優奈の騒ぎは全く知らない。
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