Je te veux

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たまに自分でも自信がなくなるが、私とて女の端くれ。子供が出来ておかしいことなど、何もない。 アーヴィングは皮肉っぽく口の端を吊り上げた。 「それなら仕方ありませんね。式はいつですか? 花嫁衣装の貴女を見て、大笑いして差し上げますよ」 「式? 何寝ぼけたことを。仕方なく貴方に話しただけで、他の誰にも言うつもりはありませんし、今更女物を着る気もありませんが?」 そもそも、実家には縁を切られて久しい上、殿下の正妃にもなれないのだ。自分で何とかするしかあるまい。幸いにも蓄えはあるので、何とか親子二人やっていけるだろう。 「……まさか本当に子供が?」 「……最初からそう言っているじゃありませんか」 目を丸くしたアーヴィングは、本気で冗談だと思っていたらしい。まあ、仕方がない。これも日頃の行いが悪いせいなのだろう。反省するつもりは毛頭ないが。 「では……サルマト殿下にも言わないとなると、殿下以外の誰かのお子さんなんですか?」 「アーヴィング、それはこの世界が滅んだとしてもあり得ないことです。口は慎みなさい。まだ死にたくないでしょう?」 いつか刺されますよ、私に。 「お言葉ですが、隊長殿。子供が出来るということは、男女関係において、最も重大な案件であると思われます。 最低限度、その父親には知らせるべきではないでしょうか? 寧ろ、その事を盾に取って、殿下に責任を取らせるということも……」 「私の立場を考えてみなさい。それが出来るなら、殿下がアゼルと婚姻を結ぶ前にとっくにやっています」 互いに初めての相手なのだ。私とて、女であることを逆手にとって、「やっちゃったので、結婚させてくれ」、もしくは「妾妃でいいので認めてくれ」と言おうと思わなかったと言えば嘘だが……半分以上合意ではなかったし、自分からルノー殿下との婚約を破棄した手前、それは厚顔にも程があると諦めた。 そもそも、そんな不名誉なことをしでかしたというのに、生かされているだけ有難い。 婚約破棄後、私が騎士になると言った時、誰も止めなかった。既に実家からは見放された小娘だ、すぐ泣き付いてくると思ったのだろう。私に変に執着していたルノー殿下ですら口を出しては来なかった。 しかし、私が一兵卒から隊長にまで上り詰めるとは誰も予想しえなかったらしい。 それも当然か。
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